みせばや
−4−
望美のいない夏が終わっていく。
希望を失ってはいない。
けれど何の手がかりもつかめないまま時間だけが指の間をさらさらと滑り落ちていく。
何も攫めない。
時折感じた望美の気配も最近欠片も感じられなくなっていく。
冷えた宝玉に触れるたび、あの時いっそ自分も一緒に連れて行ってくれたらよかったのに
などと考える。望美がいれば何処へだってゆくのに。
もうここへ来てしまった。ここからまた何処へ運ばれたとしても何もきっと変わらない。
……自暴自棄になっても仕方がない。
庭の花が咲き、花が終わってゆくのを眺めるのも辛くなってきた。
時間が経つのが目に見えてわかるのが。
望美に見て欲しかった花々が、結局望美が愛でることなく咲き、枯れてゆく。
景時や朔に見てもらって嬉しくないわけではない。
今日も気晴らしに買い物でも、と誘ってくれた景時と朔の寂しげな笑顔がちらついた。
「先輩」
久々に声に出して呼んでみる。
こんな晴れた日には望美の笑顔を思い出す。
振り返って微笑んでくれたあの眩しいほどの笑顔を。
ふいに返事をしてくれるのではないか、そう期待を込めて貴方の名を呼んでみる。
返事は、返らない。
夏の花が終わってゆく。
秋桜がちらほら咲きだした。
空は日に日に高くなり、甘く強い夏の空気が秋の気配に変わっていく。
忘れたくないのに、日々望美の面影は薄れていく。
埋もれてしまいそうなほど貴方のことばかり想うのに貴方の面影が薄れていく。
行かないでくれ。消えていかないで。
時が経てば経つほど痛みは薄れてゆく。悲しみなんて癒されなくていい。
貴方を忘れるくらいなら。
「貴方に、会いたい」
願うのはただ、それだけ。
帰ってきてくれなくてもいい。傍にいられなくてもいい。
今ひと時でも貴方に会えるなら。
全てを失っても……なんて貴方以外に俺には何も失うものなどないから。
今邸は皆出払って誰もいない。
だから名前で貴方を呼んでみようかと思いつく。
けれど、それは自分でも馬鹿らしくなるほどの勇気が必要で。
愛おしいという気持ちで溢れて、おかしくなってしまいそうで。
万感の想いを込めて貴方を呼ぶ。
「……望美」
震え、掠れたその声におかしくなり自嘲する。
その時、貴方の髪が揺れるような気配がした。
思わずあたりを見回すが、秋桜が風に揺れるだけ。
もう一度、貴方の名を呼ぶ。
「望美」
さわり、秋桜がもう一度風に揺れた。
目を閉じた方が気配を感じる気がした。
弓弦を引き絞るように、集中を高めていく。
今を逃したらもうきっと二度と会えない。そんな気がした。
貴方と俺には絆があるのだと、信じる。
同じ故郷、一緒に育った幼馴染の絆。
八葉と神子の絆、星の一族と神子の絆。
そして貴方を愛する男と、……女の絆。
最後の貴方の姿を思い浮かべる。
貴方は俺を護りたいと言ってくれた。確かにあの時心が通い合ったのだと、信じる。
もし、貴方も俺に会いたいと願ってくれたなら。
俺はどんな細い気配でも手繰り寄せて貴方にたどり着こう。
貴方がそれを願ってくれるなら。
……いや、そう願ってくれている、望んでいると信じる。
貴方は時々俺の近くに来て見守っていてくれたのではないだろうか。
貴方にゆかりのある場所にいく度貴方の気配を感じたから。
貴方は俺と共にもう一度旅をしてくれたのではないのか。
俺が貴方を辿る旅を一緒に巡ってくれていたのなら。
貴方は俺をきっと待ってくれている。
そうでしょう?先輩。
「譲くん」
望美の声が聞こえたと思った瞬間、ふいに痛いほどの熱さを首の宝玉に感じ譲は意識を失った。