みせばや
−3−
婚姻の話はまだ保留にしておいてくれ、と言い残し星の一族の館を後にした。
一旦景時の邸に戻り、もう一度望美を探す手立てを考え直そう。
心配をかけてしまっているだろう朔と景時に心の中で詫びる。
始めは上手く乗れなかった馬もだんだんに慣れこの場所へ流れ着いてからの月日を思う。
恐々乗っていたときは見えなかった景色も今は目に入ってくるようになった。
岩場に生えた植物を見やる。
「!」
珍しいと目を凝らす。
みせばや……現代では絶滅を危惧されている花。
菫が大切に庭に植えていたのを思い出す。
この時代では珍しくもなんともないのかもしれないが、懐かしさに目を凝らす。
銀色がかった緑の葉。秋には綺麗な花をつける。
群生しているのを見て、一株くらいならと思いつく。
望美に見せたい一心で望美の好きな花ばかり植えていた頃を思い出す。
最近は最低限の手入れ以外していなかったな。
余裕の無さとはいえ、自分で植えた花々に心の中で謝ってみる。
今年も美しく咲いてくれたというのに。
その美しさを一緒に愛でて欲しい人がいなかったからそんなに眺めていなかった。
方々を探し回って疲れきっていた心に確かに安らぎを与えてくれたのに。
帰ったら心を込めて世話をしよう。久しぶりに。
丁寧に根のまわりをかきだし、懐紙に包んで篭につぶれないようにそっと入れた。
一週間ほどの留守の間に庭は少し荒れていた。
雑草を抜き、水をやり、肥料を与え、枝を間引く。
そうやって無心に作業をしていくことで久々の充実感を覚える。
朔が休みましょうと声をかけてくれたときにはもう夕闇が落ちていた。
久々に少し元気そうな譲の表情にほっとしたような景時と朔の笑顔。
心配をさせてしまったなともうしわけない気持ちでいっぱいになる。
「星の一族の館で何か収穫はあったのかい?」
景時が久々の譲の夕餉に舌鼓を打ちつつ尋ねた。
「相変わらず、何も。
でもまだ望みはあると思っています」
「まあ」
「それはどうしてだい?」
もう望美が消えて四ヶ月たつのだ。帰って欲しい気持ちは勿論ある。
希望だって捨ててはいない。けれど、もしかして……
そういう気持ちが育つのに充分すぎる月日がたってしまった。
源氏の勢力範囲内外問わず国全体で捜索をかけたのだ。
しかし、ひとかけらの手がかりもつかめない。
一喜一憂しながらたった時間は、景時と朔からも笑顔を奪うには充分で。
会話にするのもためらわれる。と皆で避けてきた話題だった。
譲は景時の鎖骨を指差した。
「まだ宝玉はひとつに戻っていません。
まだ役目は終わっていないとそう思うんです」
「つまりまだ何処かに望美がいて」
「消えていないから、宝玉はまだオレ達の体に残っている、と」
「そして文献に気になる記述があったんです」
「へえ、気になるな〜。教えてよ」
文献はいくつも残されているにも関わらず、何故か全て終わりが
『龍神の神子によって京は救われました』で終わっていること。
それがどうして全てその文章で結ばれているのか。
確かめられるものは全て目を通したけれど、すべてその言葉で最後だったと。
それに譲自身が違和感を感じたのだと話す。
「ふ〜ん」
「よくわからないわ」
「……神子が数人いて、時代が違っていて状況は全て違うのに、
何故同じ終わり方をするんでしょう。俺はそれが不思議だったんです」
「つまり、そう終わらせないといけない何かがあると譲くんは思うんだね」
「そうです。先代も先々代も。
そうやって書かざるを得ない事情があったのではないかと。俺はそう思います」
「星の一族の勘、なのかしら」
「……どうでしょう。
でも時々ふっと先輩の気配を感じるときがあるんです」
「……とにかく、望美ちゃんにオレたちも会いたいんだよ。
早く帰ってこれるといいね」
「そうね」
譲が擦り切れてしまう前に。どうか。
景時と朔は祈るような気持ちで譲を見つめた。