世界の果てで君を待つ




  −3−


 花梨にしがみついたまま号泣してしまった幸鷹はひとしきり泣いておちついたのか
 花梨をはなしてすみませんとしょんぼりした。
 花梨は立ち上がって水道の水でハンカチを濡らすと、
 ぐしょぐしょになった幸鷹の顔をぬぐってやった。
 すみません。とさらに幸鷹はしょんぼりしたので花梨は思わず笑ってしまった。
 キキーッと車の止まる音がして、幸鷹は顔を上げる。
 車からひとりの女性が降りて来た。
 幸鷹はその女性に向かって駆け出す。

「ユーキ!」
「姉さん!」
「姉さんじゃないでしょ。ママっていえないの?まったく」
「すみません」
「ユキ、で?会えたの?」
「このひとが花梨さんですよ」
「へぇーえ!本当に会えたんだ。よかったね」

 くしゃくしゃと幸鷹の頭を撫でる女性は笑って花梨に会釈したので花梨も会釈を返す。

「えーと。ぼくのママで、幸鷹の姉です」
「お姉さん!?」

 幸鷹は確か幸鷹の甥として生まれたと言っていた。
 では彼は彼の家族と再会したのか、違った形で。

「なんか妙なことになってるのよね。花梨さんはそのへんご存知なのかしら」
「……23歳だった幸鷹さんのことは」

 23歳か。
 彼女はひっそりと笑い、幸鷹を眺めた。

「ユキが23歳になるのは16年後か。待てないわよねぇ」
「いえそんな」
「全部こいつのワガママなの。ごめんなさいね。
 でもわたしたちは。ユキに出会えて嬉しかったの。……不思議よね。
 ウチの連中はみーんな科学とか物理とかお堅い学問ばっかりやってて。
 生まれ変わりだとかナンセンスな!とか思ったものよ」
「……」
「信じるのには、受け入れるのには時間がかかったわ。
 でもわたしは幸鷹っていう名前をこのチビにつけたのは後悔してないの。
 幸鷹がいなくなって……ユキが産まれて。ああきっとこの子は生まれ変わりなんだって。
 そう思えたからそうつけたんだけど。本当にそうだったとはね。たまげたわ」

 幸鷹の髪をくしゃりと愛おしそうになでて女性は続けた。

「この子は貴方に会いたい、会いたいって、ずっと貴方のこと探してたの。
 それで貴方の学校を突き止めて。いきなり押しかけてしまってごめんなさいね。
 驚いたでしょ」
「……はい」
「無理もないのよねえ。ユキの中では時間をかけて納得してきたことなんでしょうけど。
 貴方はいきなり……なんでしょう?わたしたちも時間がかかったんだもの。
 すぐに受け入れるなんて難しいわ。ゆっくりでいいの」
「……」
「……でも花梨さんが嫌じゃなかったら。
 ユキに時々会ってあげて欲しいの。
 この子夢に貴方のことを見るのか、よくごめんさいって泣くのよ。
 貴方に会いたかったから生まれ変わったとかもう滅茶苦茶よね。
 母親のわたしがお願いする筋じゃないってわかってるけど。
 この子のワガママにつき合わせても悪いと思うし、
 この子とじゃあお付き合いにもならないと思うんだけど。
 もし嫌じゃなかったら」
「ママ!」

 憤慨するような顔で幸鷹は母親を見上げる。
 母親は苦笑いして

「余計なことを言っちゃったかしら。
 わたしはどっちの気持ちもわかる気がするから。……無理強いはできないわ」

 これは連絡先。
 母親は花梨に電話番号と住所を書いた紙を渡すと幸鷹の手をひいて、
 軽く会釈をすると車のほうへ歩き出した。

「花梨さん!」

 振り返った幸鷹の目を花梨は見つめた。
 悲しそうな瞳をしていた。
 小さな幸鷹を悲しませたくはない。
 けれど受け入れるのは時間がかかる。
 同じ幸鷹なのに。わかっているのに。
 大きな手のひらで大丈夫だと撫でてくれたあの幸鷹に今は会いたかった。

 時々連絡先が書かれた紙を見つめながらも何も出来ないまま三ヶ月が過ぎた。
 塞ぎこんだ花梨に友達が遊びに行こうと誘う。
 心配してくれる友達の好意を無駄にしたくないと花梨はそれをしぶしぶ承諾した。


背景画像:【空色地図】

また超展開ですか。【091015】
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