かぼちゃの匂いはふたつある

Welcome Trick or treaters!!



  −3−


 うわあ!と歓声を上げて貴方は売り場に駆けていった。
 早く早く!手招きする貴方に苦笑いして俺も早足で追いかけた。
 少し前はこんなに流行っていなかった気がするのに、
 年々ハロウィンは定着してきたのだろうか。
 ……近所の子供も仮装するくらいだ。きっとそうなのだろう。
 由来なんて知らなくても楽しいのなら楽しんでしまおう。
 日本人は祭り好きなんだろうか。
 少なくとも目の前にいる貴方はそうだ。

「譲くん!見てみて!」
「はい、先輩」

 目をキラキラさせながら、貴方は色々考えているみたいだ。
 俺はクッキーの型やら何やらを見てみた。
 そこに売っているクッキーを参考に、どんなものが出来るのか考える。
 量を作らなければいけないのなら、それ程手間はかけられない。
 クッキーとパウンドケーキ。後は小さなタルト、くらいだろうか。
 パンプキンプリンは美味しいけれど持ち歩くのには向かないし、
 何より器にコストがかかる。
 頼まれごと、とはいえボランティアだ。
 自分の懐が痛むほどの散財は避けたい……クリスマスも近いのだから。
 兄さんのようにバイトでもすべきだったか。
 けれど、母さんからは晩御飯代としていくらか毎月貰っている。
 うまく食費をコントロール出来れば、プレゼント代に少し予算を上乗せできるだろうか。
 ちらり、とはしゃぐ貴方を横目に眺めた。
 今年は貴方に何を贈ろう。
 どうせ有川家春日家の合同クリスマスパーティ中に渡すことになる。
 意識しています、と貴方以外の全員にわかってしまうようなものは選べない。
 そんなものを選んでも、きっと貴方は何も気がつかない。
 こうして二人きりで出かければ、嫌でも思い知らされてしまう。

「譲くん!あっちも見ようよ!」

 ぐい、と貴方は何のためらいもなく俺の手をとり走り出す。
 貴方にとって俺は、対象外、なんだな。
 嫌われてはいない。
 好かれているような気はする。
 けれどそれは俺の望む『好き』じゃない。
 兄さんに対しても貴方は同じような『好き』で接する。
 いつまでこの状態は続いていくんだろう。
 いったい、いつまで。
 貴方は俺の手を何のためらいもなく握るけれど、
 握られた俺はぐるぐる動揺の渦の中だ。
 ピカピカの貴方の眩しい笑顔も一緒にその渦の中でまわっている。
 俺は平常心を装うことしか、できない。

「こっちも可愛いね。
 ……譲くん、どっちがいいかな?」
「……」
「譲くん?」
「えっ、ああ、……少し考え事をしていました」

 貴方の笑顔が曇りそうになって、俺は我にかえる。
 心を落ち着かせよう。
 眼鏡のブリッジを上げて、すみません、と精一杯の笑顔で返す。
 いいけど。と笑顔に戻った貴方に安堵の溜息をつく。
 貴方を見ているのが、好きだ。
 対象外だったとしても。
 今の貴方の笑顔は、一緒にいる俺だけのもの。
 貴方が俺のものでなくても、今この一瞬だけは俺が独占しているのだから。
 それでいいと、思わなくては。
 貴方の笑顔を見ていたい。少しでも長く。
 この買い物が終わったら休憩しましょう、そういえば。
 貴方はいいね!と微笑んでくれた。


 駅からのいつもの道を並んで歩く。
 こういう時、家がとなりというのはいい、と思う。
 ギリギリまで一緒にいられるから。
 ゆっくり買い物をしたせいか帰りが少し思っていたよりも遅くなってしまった。
 秋になり、日が落ちるのが早くなり。
 昼間暖かくても、日が落ちれば肌寒さを感じるようになった。
 貴方は少し薄着で。
 触れた手がすっかり冷たくなっていた。

「先輩、手が冷えているじゃないですか」
「うん、思ってたより寒くなっちゃったね」
「……仕方ない人だな」

 勇気を出して、手を繋いでみた。
 気恥ずかしくて貴方の方を見れなかったけれど。
 貴方は嫌がらずに握ってくれた。

「譲くんの手、あったかいね」
「そうですか」

 貴方と一緒にいて少し、緊張していますから。
 ……そんなことは言えない。
 ただ、貴方の手を温めるだけの暖かさがあってよかったと思う。
 ほんのりとぬくもりが伝わっていく。
 俺の手から、貴方の手に。

「もうすぐ冬の星座が見えるね」

 貴方は不意に空を見上げて言った。

「……深夜になれば、もう冬の星座も見えますよ」
「譲くんの意地悪。夜更かしできないって知ってるくせに」

 そんなことは知っている。
 勉強に一区切りついて、俺が空を眺める時間には、貴方の部屋の電気は消えている。
 心の中でおやすみ、と呟いて俺も眠る。
 俺のそんな習慣を貴方は知らないだろう。
 知って欲しい、とも思わない。
 ただ隣で微笑む貴方の笑顔を絶やしたくない。
 俺が望むのは……望んで許されるのはきっとそれくらいだ。
 一緒に今日見てまわった店で、貴方の視線が確かに止まったものがあった。
 確かに貴方はああいうものが好きだろう。
 ……クリスマスプレゼントにどうだろうか。
 けれど、皆の前であれを渡す勇気はない。
 それよりも、自分にはあれを一人で買う度胸もない気がする。
 でも、貴方の喜ぶ顔が見たい。
 まだ、クリスマスには時間はある。
 それをプレゼントにするかは、もう少し考えてみよう。
 そんなことを考えているうちに家につき、貴方とまた明日と言って別れた。


背景画像:karonko photo material

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