時代が変わっても花の色は変わらないものだな。
樹齢を重ね、花の見事さは変わってもどこか面影がある。
それにしてもここは花見の折に開放されても禁酒だった筈なのだが、
何処を見回しても赤ら顔で溢れている。
静かに花を愛でるのもいいが、こうして皆で春を祝うのもいいか。
隣を歩く愛おしい人は、見慣れないのか目を白黒させている。
「どうしたの?怖い?」
「いいえ?
でもこういうのってテレビでしか見たことがありませんでしたから」
「そう」
確かに君の厳しい兄はこういう場所に君を連れ出すことはなかっただろうし、
立派な君のご両親はこういう場所を好まないだろう。
けれど無性に人が賑わう姿を見たかった。
夜桜は美しいけれど、少し怖い。
静かな場所で眺めると魂を遠くへ誘われてしまうのではないか。
私がそんなことを考えているとは君は思わないだろう。
私のような俗物はそんなことはないだろうけれど、
傍らの君は既に龍神に愛された身だ。
また何処か遠くへ連れ出されてしまうかもしれない。
夢見るような眼差しで見上げる君は、まさに心あらずで。
少し悔しくなり繋いだ手に力を込めると、
君はどうかしましたか?と不思議そうに私を見つめた。
……そうやって私を見つめることも忘れないで?
そう囁けば、君は頬を染めて頷いた。