日光に向かう前に怨霊や陽炎を少しでも封印したいと励むゆきくんを、
まわりは気遣うけれど、君の意思は変わらない。
体力は前にも増して落ちているように見えるのに、
君はその強い意志で進んでいってしまおうとする。
姿形では想像できない強さを秘めた君を、護れるものなら護りたいと思う。
けれど私にも役目がある。
八葉であり、君に心を預けてみたくとも、私には捨てられない
薩摩藩家老という大役がある。
それに私の武力などたかが知れている。
もっと腕の立つものも多いし、私の薙刀の腕など多分下から数えた方が早いのだろう。
もう少し稽古を積んだ方が良かったかとも思ったけれど、
結局そういうことは私には向いてはいないのだ。
自分を守りきれる程度の腕を持つことで満足するべきだと悟った。
だからそうやって君を守ろうとすることはいつか見切りをつけていた。
他に私にしか出来ないやり様はあるのだと、それを考え続けてきた。
「寒くは無い?」
「少し、寒いです」
「そうだろうね。
皆ここで一息入れよう。あそこの茶屋はどうかな?」
皆も嬉しそうに茶屋へ入っていく。
君に袴でもはいた方が良いのではないの?
何なら贈らせてくれない?とそれとなく言ってみても、
動きにくくなると迷惑がかかるとかなんとか遠慮するばかり。
君が袖を襷掛けして、袴を履いた姿もなかなかのものではないのかと
夢想してみても、それは現実になることはないようだった。
いつものように団子と茶を頼んだ君。
店の娘を呼ぶと甘酒を頼んだ。
「どうぞ」
ことりと目の前に置かれたそれを君は不思議そうに眺めた。
「わたし頼んでいませんが」
「いいの。
私から、君に。
もしかして甘酒は嫌い?」
「あまり飲んだことがないから」
「そう。
とても暖まるよ」
「そうなんですか?」
君はそれをひとくちのんで首をかしげた。
「これ、お酒ですか?」
「厳密には酒ではないと思うけれど、酒のようなものかな。
甘くて飲みやすいのではない?」
「甘酒には生姜を入れることもありますから、あたたまると思います。
飲めるなら、飲んだ方がいい、ゆき」
「瞬兄がそういうなら」
苦手だったのかな?少し心配したけれど、
君はごくごくとそれを飲み干し、笑顔になった。
「体がぽかぽかしてきた……」
「温まったのならそれでいいよ」
「ありがとうございます。小松さん」
いつになく素直に笑顔を向けてくれた君の笑顔に心が温かくなったけれど、
君の頬が少し赤いのは……それはこの程度でもしかして酔ったのかな。
君は都くんに上機嫌で抱きつくと、そのままことりと眠ってしまった。