「この時期の大風とは、ね」
この大雨の中ついて来た随身に馬を頼むと、心づけを渡し邸に戻らせる。
この雨風の中訪れるなど、狂気を疑われても仕方ない。
笠を外し、濡れた髪を拭う手ぬぐいを御内儀から受け取り、拭いていれば、
君が降りてきた。
「小松さん?どうして?」
「さあ、どうしてだろうね。
君にはわからない?」
心底不思議という顔をして君は問う。
叩きつけるように降る雨の音は一向におさまらず、
雨漏りに皆はてんやわんやの状態だった。
確かにこんな夜にわざわざ訪れずとも、明日の朝大風が過ぎてから来ても良かった筈だ。
自分でもこの行動はらしくはないと笑いがこみ上げてきて、
そんな私を見て君はさらに不思議そうな顔をした。
「ゆきくん。君と約束したでしょ。
勤めが終わったらすぐ戻ると。だから私は来たんだよ?」
「でも、凄い風でしたよ?」
「そうだね。確かに凄い風だったけれど。
でも、……こうして来れば安心でしょ?
私がいたら君は安堵しないの?」
どうでしょう?
首をかしげる君の頭をそっと撫でれば、君は僅かに嬉しそうな顔をした。
ただ、私は君のそんな顔を一時でも早く見たかっただけなんだよ。
走り回る喧騒に、いつまでもそうしてもいられず、私はやれやれと階段を上がった。