夕餉も終え、縁側で涼をとっていれば、湯浴みの済んだ君が庭に出てきた。
ひとり贈れば皆も、と競い合うように君にそれぞれ浴衣を贈った。
贈られた浴衣は柄も色もまちまちで、君をどう思っているのか垣間見えるようで興味深い。
困惑しながらも君は受け取ったそれを律儀に日替わりで袖を通している。
華やかな浴衣を皆贈った中で私が送ったものが一番地味だったかもしれない。
今日は私の贈った浴衣に袖を通してくれたのか。
洗った髪を結い上げて、見える項は抜けるように白い。
頬が緩むのを止められないが、もう薄暗い。それを気に留めるものもいないだろうと開き直る。
紺の地に葉の裏から蛍が飛び交うその生地は、少し地味かもしれないが
京から取り寄せたものの中では君に一番似合う気がした。
浴衣で昼に出歩くことは稀なのだから、夕涼みに一番似合う柄を。
君には不思議な華がある。だから派手な柄でなくてもいい。
淡い光を放ち求愛するのが儚い蛍の性なれど。
……君にそれを贈った私の気持ちなど君にわからなければいい。
私にもまだそれがどれほどのものか、わかりかねているのだから。
「小松さん」
八葉の皆がぞろぞろと集まって何をするかと思えば、
宿の御内儀に断って庭で花火をするのだという。
「私はここで見ているよ」
そういえば君は頷いて、皆とわいわい花火を始めた。
煌く花火に、君の蛍が仄かに浮かぶ。
ああ、やっぱりあの柄でよかった。
そうぼんやりと眺めていたら、君が線香花火を差し出した。
皆で誰が一番長く落とさずにいられるか競争するのだという。
小松さんも一緒にやりましょう。
にっこりと笑う君に、やれやれと腰を上げれば。
早く、と君は私の手を取り駆け出した。