『メール』と『文』が違うのはわかる。
 『メール』には『文』ほど情感や、季節感が求められないことも。
 しかし君へ送る私からの『メール』は恋文だ。
 その内容には拘りたいと思うのは自然なことではないのかと思うのだけれど。
 『メール』に慣れた現代人の感覚はそうでもないらしい。
 君のは特にそれが顕著で。
 特に仕事を始めた瞬間に来る等メールをくれるタイミングが
 図ったように劣悪なのに加えて、
 君のメールは無駄な言葉がないまるで業務連絡のようだ。
 顔文字、などという醜悪なものがないからまだいいのかもしれないと
 そう思っても。
 もう少し何か匂うようなあでやかさがあってもいいと思うのは、
 私の要求が厳しい、あるいは間違っているのだろうか。

 今日もパソコンを開いたとたんに君からの着信。
 まるでどこからか覗かれているようなそんな気持ちになりながら、
 一応期待をしないで文面を確かめる。

『大好き』

 …………。
 君の言葉には飾りが無いのはわかっているし、それが気にも入っている。
 けれど、こんなことを何の衒いも無く書き送ってくるのは
 どういう神経をしているんのだろうね。
 送った向こう側で少し照れてくれてでもいればいいのだけれど。
 どんなつもりで送ったんだか。
 君の言葉はいつも唐突で、気持ちのやり場に困る。
 しかもこれから仕事を始めようという時に。
 集中力を高めた後に、こんな言葉を贈ってくるなんて、これだから、君は。
 本当に思い通りにならなくて困る。
 こんなに思い通りにならなくて、可愛いと思える存在など貴重だ。

「本当に、君は可愛いというべきか、なんというか」

 大きくため息をついて。
 やり場のない想いを少しでも胸のうちから搾り出す。
 まだ君に会えるまでには時間があるというのに、本当に困った娘だ。
 ……一応返信をしておくべきか。
 こんな時には私も簡潔に返すべきだろう。
 簡潔に返すのなら、迅速に。

『私もだよ』

 ……普段のメールのような前置きは一切おかずに、
 ただそれだけを打ち、送信ボタンを押した。
 その一言が君の頬、いや耳までもより紅く染めることを期待して。

背景画像:ミントBlue

君からの言葉 帯ゆきver.