朝明るくなる時間がどんどん早くなっている気がする。
 暖かくなって、朝動けないと思うことは少なくなったけど、
 まだ起きる時間じゃないのに眩しくて起きるのがちょっと勿体無いと思うのは
 単なるワガママだとはわかってる。
 でも、まだ目覚ましも鳴らないのに起きてしまうのも損をしている気がして、
 ぬくぬくと温まった毛布の中でもうちょっとと言い訳をしながら目をつぶった拍子に
 携帯が鳴った。
 まだ目覚ましが鳴る時間じゃない。
 それにこの着信音は譲くんだ。……しかもこの音はメールじゃない。
 若干不本意ながら出た第一声は自分でも機嫌が悪いのがわかるほどだった。

「なぁに?」

 受話器の向こう側で、寝起きの悪い私の様子がありありとわかるという風に、
 譲くんは苦笑いする。

「……おはようございます、先輩」
「ふぁぁ、おはよう。譲くん。どうしたの?」
「……先輩忘れてたんですか?
 今日は日食ですよ」
「日食?」

 受話器の向こう側で譲くんはため息をつく。

「……とりあえず、起きて外に出てきてください。
 あと15分で面白いものが見れますから」
「う、うーん」
「……そのまま学校に行けるように出来れば仕度してくださいね。
 朝ごはんは作りましたから見ながら一緒に食べましょう」
「譲くんの朝ごはん?」

 がばりと起き上がった気配を感じたのか、
 譲くんは少し笑うと、また後でと通話を切った。
 急がないと!
 勢いよく階段を下りて、顔を洗って歯を磨く。
 髪の毛をしっかりセットする時間はないので前髪をとりあえずきちんとして、
 珍しくみつあみにしてみた。
 お母さんに朝ごはんいらなーいと言ったら、
 譲くんから聴いてるわよ、と返事された。
 こういう根回しまで完璧。
 譲くんは本当に準備がいい。
 急いで制服を着て、お弁当を受取って。
 玄関を出ると譲くんが笑って待っていた。

「おはようございます。先輩」

 庭の方に用意してあるんで。
 そういって庭に行くと縁側にサンドウィッチと紅茶が用意してあった。

「とりあえず食べながらでいいんで、
 これを翳して太陽を見てみてください」
「なあに?何にも見えないよ?」
「……太陽以外見えない特殊なものらしいです。
 むしろ他のものが見えてしまうもので太陽を翳してみると、
 目を傷めるそうですから」
「ふーん」

 渡された黒い下敷きのようなもので翳して、
 太陽を見上げると三日月のように欠けている。

「えっ。何コレ!凄いね!」
「凄いでしょう。
 このまま進めばほぼ完全な円形で覆われるみたいです。
 見れる時間に起きるものだったので、
 一緒に見たかったんですよ」
「え?輪っかになるの?」
「ええ。
 運良く今回は部分日食じゃありませんから。
 あと、もう五分くらいでなりますから。
 一緒に朝御飯を食べながら待ちましょう」
「うん」

 絶品のサンドウィッチを食べながら、
 見上げる太陽は徐々にかけていく。
 折角晴れているのに太陽の昇る先が薄い雲に覆われていた。

「見えなくなっちゃうかなあ」
「ここまで見れたのでできれば完全に隠れたのもみたいですよね」
「うん……」

 見上げれば、金の輪が雲の中にくっきりと浮かんだ。

「わ、綺麗……!」
「こうなるとむしろフィルター越しに見るよりもいいですね。
 あんまり直接見上げると目をやられてしまいますが」
「でも何だか神秘的だね」
「……そうですね。
 貴方と一緒に見れて良かったです」

 照れたように譲くんは笑うと、そっとわたしの手を握った。

「東京近郊で見れる日食は、次に見られるのは数百年先だそうですから。
 こうやって貴方と一緒に見れて良かった」
「うん。感動した!
 ……それに朝からこうやって一緒に朝御飯も食べられて幸せ!
 譲くんのごはん、本当においしいもん」
「そうですか?」
「本当に幸せになれる味なんだよ?
 毎日食べられたらいいのに!」
「……そ、そうですか?」

 譲くんは照れたのを隠すように眼鏡を直すと、
 毎日貴方に朝ごはんを作ってあげられたら俺もきっと幸せなんですが、
 と呟いた。
 どういうこと?と見つめると、譲くんは耳まで真っ赤になって、
 学校に遅れますから行きましょう、とそそくさと縁側から立ち上がった。

背景画像:Spruce Goose

貴方と一緒に 譲望ver.