コンコン、と戸を叩けば返事が無い。
開けるよ、と声を一応かけてドアを開ければ、
ゆらりゆらりと不規則に頭が揺れている。
昨日は試験だったし疲れていて当然だ。
普通に勉強するつもりで机に向かっていたのに、
ついうとうと眠ってしまっていたんだろう。
譲くんがうたたねなんて、珍しい。
わたしとちがっていつも何処か隙が無いのに。
眼鏡が少し傾いたその横顔はいつもより少し幼い顔。
きっと疲れていたんだろう。
その幼い顔が可愛く見えて、頬に唇を寄せれば、
譲くんははっと目を覚ました。
「……!
先輩?」
「そろそろ休憩にしたらっておばさんがココア入れてくれたよ」
「……俺、いつの間に寝ていたんだろう」
「ちょっとの間じゃないかな」
くしゃん。
譲くんがくしゃみをした。
寝冷えしたんだろうか。
カップを渡せば、譲くんは包み込むしてひとくちココアを飲んだ。
「凄く、温かいです。
ありがとうございます」
「入れてくれたのはおばさんだよ?」
「でも、こうして貴方が来てくれて、凄く嬉しくて、
もっと温かくなったんです」
「そう?」
「ええ」
「……もう、風邪引かないでよ?」
「大丈夫です。
こうして、貴方が来てくれたから、風邪が逃げてしまいましたよ」
「譲くん!」
にっこり笑うと譲くんはココアを美味しそうに飲み干した。