「すっごい人だね!」

 貴方は呆然と周りを見回した。
 八幡宮への参道は人でいっぱい。
 初詣の参拝客が十位以内とはきいていたけれど、
 二年参りの時点でこんなにいるのか。
 苦笑いしてみても仕方ない。
 高校生の貴方と俺がこんな時間に一緒にいるなんて、
 こんな時くらいしか認められていない。
 早く大人になれば、もっと一緒にいられるんだろうか。
 それとも高校生の今が一番一緒にいられる時期なんだろうか。
 はぐれないように手を繋ぐ。
 付き合い始める前もこうして手を繋いでいた。
 意識して、照れていたのは俺だけ。貴方はいつも平気そうな顔をしていた。
 けれど今は貴方も時折恥ずかしそうな顔をしてくれる。
 そんな表情を俺にしてくれたことなんてなかったのに。
 貴方の少し照れた横顔が、俺の心拍数を上げていく。
 年の瀬特有の引き締まるようなきりっとした空気が心地いい。
 駅から参道を抜け、鳥居を潜ればそこは人で溢れていた。

「やっぱり凄いね」
「そうですね。でもまだ昼間よりは少しはましでしょうか」

 警官の拡声器から注意が飛んでいる。
 ただでさえ人が多いのに、今は夜で足元が見えづらい。
 誘導も大変なんだろう。改めて貴方の手を握る。
 時間はかかったけれどお参りを済まして、おみくじを引けば、
 貴方は大吉、俺は吉だった。

「さすが、運がいいですね」
「でも、譲くんだって吉じゃない」
「そうですね。
 でも今年が吉だなんてちょっと怖いです」
「そうなの?」
「こうやって今一番幸せだと思うのに、これ以上があるなんて信じられないんです」
「いいじゃない。どんどん幸せになっちゃおうよ、ね」

 貴方が差し出した手のひらをぎゅっと握り、石段を下れば
 屋台が並んでいた。
 並んでいる最中からその匂いにそわそわしっぱなしだった貴方は
 見てまわりたくて仕方が無いみたいだ。

「譲くんが作ってくれた奴の方がおいしいのはわかってるんだけど、
 屋台ってやっぱり楽しいよね」
「そうですね」

 この後は江ノ島で初日の出を見る約束だ。
 今日の空は比較的晴れているから、初日の出は見れるだろう。
 その前にちょっと何か食べて力をつけておこう!
 気合の入ってしまった貴方が俺の腕をぐいぐいと引っ張っていく。
 本当に貴方は仕方ない人だな。

「じゃあ何を食べましょう」
「何にしよっか」

 振り返った貴方は満面の笑顔を向けると、真剣に何を食べたいか考え始めた。

背景画像:空に咲く花

初詣 譲望ver.