兄さんはほとんど料理というものはしない。
面倒くさがりで覚えたがらないだけで実はやらせてみたら
きっと上手いんじゃないだろうかと思う時がある。
なんでもそつなくこなす人だ。
料理だけがまるでダメなんてことはないだろう。
……先輩じゃあるまいし。
その天性の勘か、運の良さかはわからないけれど、
兄さんはもちを焼かせると上手い。
手が離せなくなって、見ててくれと言うと、
綺麗に焼いてくれたりする。
「お雑煮ちょっと味付けの調整するから、
兄さん、もちを見ててくれないか」
居間にいる兄さんに声をかければ、面倒くせえなあという声と
駆け込んでくる先輩の足音がした。
「あっ、わたしが見てるよ!」
コンロの前にたち腕をまくって菜箸を握った先輩を、
兄さんは羽交い絞めにして居間に連行する。
「いや、いい!!望美お前はちょっと下がってろ、な!
テレビ面白いのやってるだろ」
「えー、わたしもお手伝いする〜」
「俺は人間が食えるもんが食いたい」
「けちー」
ぶつぶつ文句を言う先輩をソファーに置いて兄さんが台所へ戻ってきた。
「むしろ親切だろ。
オウケイ、譲。じゃ、俺が見てるわ」
「……よろしく」
一応横目で確認しつつ、雑煮の味見をする。
箸で器用にこまめにもちを並び替える兄さんの目は真剣そのもの。
少ししょうゆの香りが欲しいかな。
ひとたらしして火を止めた。
ゆずと三つ葉を刻む。
器用にひっくり返されるもちは膨らみつつも、膨らみきらない
絶妙な按配で雑煮の仕上がりを待っていた。
「ありがとう、兄さん」
「おう」
「……兄さんが料理すればいいんじゃないのか」
「面倒くさいし、お前の存在意義が薄れるだろ」
「何だよ、それ」
「いいんだよ、ごちゃごちゃ言うな。
お前のメシが旨いことに変わりは無いんだからいいだろうが」
「……そうなのか?」
「まああいつが壊滅的だからな。
その分お前が上手くなればいいとかそんな風に思ってるんだろ」
「兄さんっ」
褒められたのか貶されたのか釈然としないまま、火を止め、
塗りの椀にそっとよそい、三つ葉とゆずを添える。
食卓へ持っていけば、貴方はわくわくしながら待っていた。
「お前、早」
「せっかくおいしいんだもん。一番おいしい時に食べたいじゃない」
「……まあな」
「それにちゃんと箸もあるし」
「お前毎年入り浸りすぎだろう」
「問題ある?」
「まあ、ないけどよー」
「こうしてお箸に名前も入ってるし、数に入れてもらってるんでしょ」
先輩がひらひらと振って見せた祝い箸には『望美』ときちんと書いてある。
どうせ来るんだろうし、と父さんが毎年先輩の分まで用意していた。
父さんと母さんはあいさつ回りに出かけているので今はいない。
三人分よそうと席に着き、重箱を開ければ、
先輩の目はキラキラと輝きだした。
「今年のも美味しそうだね」
「だといいんですけど」
「きんとん裏ごししたの俺だからな。感謝して食えよ」
「はいはい」
「じゃあ食べましょう」
先輩のせーのの掛け声で三人で声をそろえていただきます、と手を合わせた。