「あれ、これどうして何も書いてないの?」
先輩は不思議そうにその短冊をひらひらさせた。
見つかってしまったか。
わざわざ目立たない下のほうに、しかも奥の方につけておいたのに。
先輩は怪訝そうな顔をしてそれを外そうとした。
こっそりと俺はため息をつく。
「望美、そんなのほっとけばいいだろ」
「だって書き忘れたのかもしれないし、勿体無いよ」
「……でももう笹についてるってことは願い事はされてるのかもしれないぞ」
「そうかな」
そうなの?と先輩は俺に振り向いたので冷や汗が出た。
「どうでしょう。
でも勝手についたりすることはないとは思いますよ」
「じゃ、誰の願い事なのかな」
「……別にいいだろ。ほっとけって。
お前だって誰にも言えないような願い事あるだろ」
「うーん。どうかなあ」
「先輩が気になるなら、外しておきましょうか」
俺がそっと短冊に手を掛けると、先輩は興味を無くしたように首を振った。
「ううん、いいよ。
それより譲くんの梅ジュース飲みたい!」
「俺のは炭酸割り!」
「兄さんは自分でやれよ」
「お前が割ったやつのほうが断然うまい」
「……わかったよ。
じゃ、先輩。ちょっと待っていてくださいね」
空色の短冊をもう一度撫でて、俺は立ち上がった。
書けなかった願いは届くことはないんだろうか。
願いを書かないことは卑怯なんだろうか。
でも俺はその短冊をつるさずにはいられなかった。
貴方に想いが届く日が来ますようにとそう願いを込めて。