折角極楽寺の駅についたのに。
 大粒の雨が降り出していた。
 くしゅん。
 貴方は大きなくしゃみをした。
 ああ、言わんこっちゃない。
 いつだって元気な貴方はいつも少し薄着過ぎじゃないか?と思うくらいの格好で。
 だからこうして暖めてあげたくなる。
 そんな隙が俺に貴方に何かさせてくれるいいところ、でもあるのだろうけど。
 それにしたって今日は少し薄着過ぎだろう。
 確かに昼間は暖かかったけど、日が落ちて風が出てきて。
 そしてこの大粒の雨。
 貴方はすっかり冷えてしまったのか、黙り込んでいる。

「大丈夫じゃ、ないですね」
「うん」

 上着を持ってくるような用意のよさも貴方にあるわけもなく。
 俺は羽織っていたパーカーを脱いで貴方に寄越した。
 一日着ていたそれは、少し汗臭くないだろうかと、気にもなったけれど
 貴方が冷えてしまうよりはいい。

「えっ、悪いよ」
「……貴方が冷えてしまうよりはいいです。
 それにもう家も近いですから」

 ためらう貴方に強引に着せ掛ければ、貴方はくすぐったそうに笑った。

「あったかい」
「それは、良かったです」
「譲くんの匂いがする」
「……汗臭かったら、すみません」

 貴方が余った袖に顔を埋めるようにして、匂いをかいでいるのをみて、
 なんとなく照れくさくなり、そっぽをむけば。

「ううん、なんかほっとする」

 ちいさく呟いて、貴方は照れくさそうに笑ってくれた。
 雨脚はさらに強くなっている。
 いつもなら傘を持ってくるのに今日は何故か俺も忘れた。
 久々のデートだったから浮かれていたんだろうか。
 自分のうかつさに舌打ちしたくなった時、先輩が声をあげた。
 見れば金網にビニール傘が一本ひっかかっている。

「これ、借りちゃおうよ」
「……いいんでしょうか」
「ここに折角あるんだもん。借りちゃおう。
 早く帰らないと譲くんが風邪ひいちゃうよ」

 ね。
 貴方はいたずらっぽく笑うと、金網からビニール傘を外した。
 帰りは相合傘だね。
 できるだけ濡れないように腕組んでいこ?貴方は俺の腕を取り、改札へ歩き出した。

背景画像:空に咲く花

くしゃみをする貴方と 譲望ver.