ニ礼二拍手一礼。
隣から盛大な拍手の音がして思わず見れば貴方と兄さんの拍手だった。
その小気味いいとでもいうような音に、周囲からため息のような声が聞こえたのは
多分俺の聞き間違いではないような気がした。
なんとなく恥ずかしくなり、俺は遠慮がちにお参りを終えると、そそくさと人の輪を抜けた。
兄さんもしっかりと何やら願い事をして、さっさとこっちに歩いてきた。
貴方は何やら熱心にまだ祈っている。
その真剣さに、兄さんは思わず噴出すように笑った。
「不謹慎だろ」
「だってあいつ熱心すぎんだもん」
その空気が伝わったのか、貴方はぱっと振り向くとこっちにかけてきた。
「ずいぶん熱心だったじゃねーか。何お願いしたんだよ」
「内緒。教えちゃったら意味ないでしょ」
「まあ、そうだな。
……まあ譲の願い事だけはわかってるけどな」
「兄さんっ」
ニヤリと笑った兄さんを睨み、おみくじをひきましょう、と先輩を誘えば、
貴方はひくひく!とそっちへ駆けていった。
誰が一番運がいいのか競争ね!と貴方は言い、熱心にみくじ筒を振っている。
……運勢を競うためにおみくじを引くものだっただろうか、と疑問に思うものの、
兄さんが一番運が無かったやつがおごりな!とのってしまったので、ため息をついた。
どうしてこうもこの二人のノリはぴったりなのか。
面白そうだ、と思った瞬間に駆けていく二人についていくのが精一杯だ。
しかもそれで何かあった場合のフォローは何故俺がしなければならないんだろう。
理不尽だ。
そう思っても一人だとあんまり動かない俺を、二人はあえて連れ出そうとしてくれているような
意図を感じられるときは有難いと思うし、兄さんと先輩が二人で出かけるのも正直面白くない。
……でも三人でいるのが結局心地いい。
いつまでも一緒にいられるわけでもないのだし。今は、まあいいか。
そんな気持ちでおみくじを引けば、吉。まずまずだろうか。
「大吉っ!」
貴方はガッツポーズして俺に見せてくれた。
貴方は本当に運が強い。まぶしいくらいだ。
振り返れば兄さんがあんまり面白くなさそうな顔でおみくじを結んでいた。
「兄さんは何だったんだよ」
「譲は?」
「俺は吉だよ」
「何だよ、しょぼいな。さすが譲」
「……兄さんこそ早々に結んで」
「将臣くん、凶だったんでしょ」
「見せてみろよ」
「もう結んじまった」
手のひらをひらひらさせてお手上げ、とポーズをとったので貴方は笑う。
兄さんは面白くなさそうな顔で何を奢るよと聞いてきたので、
貴方に決めてください、と言えば。
「んー、エサ」
「エサぁ?」
「うん、エサがいいや」
「あんな安いのでいいのかよ。露店とか色々あるぜ。
甘酒とかあんず飴とかお前好きだろ?」
「帰ったら譲くんのお節あるし、おしるこもお雑煮も食べたいし、
甘酒だって譲くんが作ったもののがおいしいんだもん。
だからエサがいいや。鳩にエサあげたい」
「まあ、……お前がいいならそれでいいんだけどよ」
人ごみの中石段を下る。
嵐に倒れてしまった大銀杏の無残な姿を横目に見つつ、池を目指した。
露店が立ち並び、おいしそうな匂いが立ち込める。
本当にいいのか?と兄さんは数度念を押したけれど、
貴方は一瞬物欲しそうな顔をしたけれど、いいのいいのと首を振った。
「おじさん、エサみっつ」
「はいよ」
紙の袋に入ったエサを兄さんは俺と貴方に手渡した。
その袋を目掛けて、鳩が飛んでくる。
少し小ぶりの鳩たちは全然人間を怖がらない。
「ちょっと待てって」
紙袋からエサを出せばそこに鳩は殺到する。
隣を見れば貴方は笑いながら、鳩まみれになっていた。
肩に、腕に。
俺と兄さんのところに来る鳩は普通の灰色の鳩なのに、
貴方のところに来た鳩は真っ白で。
なんというか一瞬この世のものとは思えないような風景にぼうっと見とれていたら、
鳩に手を突かれて我に返った。エサの催促か。
腹いせに池にエサを投げればとんでもない大きさの鯉が凄い勢いであがってきた。
……冬なのに冬眠してないのか、ここの鯉は。
入れ食い状態のその鯉を貴方も兄さんも呆然と見ていた。
「……おお」
「……凄いね」
「そう、ですね」
兄さんはエサをひょいと投げては鳩に食いつかせる遊びに没頭している。
結局何をやってもそこそこ以上に楽しむんだからな。
キャーと後ろから声がしたので振り向けば、
エサがなくなった貴方に鳩が催促して、……手持ちかばんの中にまで
鳩が入り込んでいる。
仕方ないな、と貴方の手にエサを足せば、
貴方の腕にいた鳩が俺の腕に移ってきて、俺のエサ袋の中に直接顔を突っ込んで食べ出した。
「あっ」
「あはははは。こいつ頭良いね!」
貴方のとびきりの笑顔に、どきっとしているうちに、そいつは
エサを食べ切って飛んでいってしまった。
兄さんのエサも切れたらしい。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうだな」
「お節、お雑煮、おしるこ〜♪」
「お前は食うことばっか」
「将臣くんだって楽しみなくせに」
「そりゃあ、そうだけどよ」
相変わらず貴方は花より団子だな、とおかしくなりくすりと笑ってみた。
貴方はそんな俺に気付かず、兄さんとまだ何か言い争っている。
貴方が俺の料理を楽しみにしてくれているのは嬉しい。
帰ったら準備しようと頭の中で段取りを考えていたら、貴方は俺と兄さんの手をつかんだ。
完全に不意をつかれて俺の心臓は飛び跳ね、俺は必死になって動揺を押さえ込む。
貴方は俺と兄さんの顔を交互に見て言った。
「来年もまた、皆で初詣来ようね」
「……ええ」
「おう」
その返事に貴方は満足そうな笑顔を見せると、ぶんぶんと腕を振って歩き出した。