いつものように貴方は俺の部屋で明日の予習に励んでいる。
自分の部屋でやらないんですか?と一応前に聞いたことはあるけれど。
ひとりだと勉強が続けられないんだもん、と貴方は言った。
俺と付き合ってから成績が伸びたと笑ったあちらのご両親の信頼もある。
……けれど俺が集中出来なくて。成績が落ちてしまいそうだ。
周りに変なことは言われたくなくて、貴方が帰った後や朝に集中してやっているけれど。
でも、貴方の勉強を見るのは、大きな意味で予習になるのだし。
……こうして独占できる時間は貴重だ。
時々親に呼ばれたり、ドアを突然開けられる危険はあるとしても。
今日の貴方はなんだかそわそわして落ち着かない。
目の前の数式を睨みながら、向かい側の貴方のそわそわがじわじわと移ってくる。
「ね、ちょっと。休憩しよ」
「……まだ早くないですか?
お茶入れますか。何かお菓子でも?」
「ううん、いいよ。わたし持ってきたし。
今日ポッキーの日なんだって」
「……そうなんですか」
えへへ、と笑う貴方の前で、俺は平静を装って、
知らなかったふりをする。
朝のワイドショーで言っていたから知っていた。
でも、貴方の笑顔を見て俺は初めて聞いた風を装った。
さあ、貴方はどう切り出すつもりなんだろう。
それとも、ただ一緒に食べようと言うんだろうか。
俺は必死でそ知らぬふりをする。
「たべよっか」
貴方はパッケージをあけると、にこにこして食べだした。
一本、一本。
お互い神妙な顔をして、そろりそろりと食べていけば、
意外とあっけなく最後の一本になった。
知らん振りして、最後の一本はどうぞ、と言えば。
貴方は照れたのか、ちょっと困った顔をして。
「ポッキーゲームって知ってる?」
と言った。
いいえ、と言えば貴方は悪戯っぽく笑って、
俺の口に一方をさして、反対側を咥えた。
目が合った。
なんとなく恥ずかしくなって、カリッと少し噛めば、
貴方も反対側から食べ始めた。
咥えたまま少しためらっていたせいか、貴方の唇に融けたチョコレートが
少しついているのが見えた。
最後の数センチのところで、お互い止まってしまう。
このゲームの最後はどうしたらいいんだろう。
……でも、お互いの息がかかるようなこんな距離で、止まれない。
でも、貴方はどうするんだろう。
貴方は決心したように最後のひとかけらを勢いよく食べきると、
俺の唇に軽く、キスをした。
触れ合った時、貴方の唇からチョコレートが俺の唇に少し、残った。
ぺロリ、と舐めれば。
広がっていく、チョコレートの甘さと、キスの余韻。
チョコレート、ついてますよ、と指でつついたら
貴方は、ペロリと唇を舐めて、甘いね、と笑った。