着信音を三回、二回、三回で鳴らす。
下で待っているよ、の合図。
貴方は急いで出てきてくれたからパジャマのままだった。
「どうしたの?こんな朝早く。
まだ、夜明け前だよ?」
「今日はいつですか?」
「あっ」
「でも、起きてきてくれたからいいですよ」
パジャマにカーディガンを羽織っただけの貴方に自分のコートとマフラーを巻きつける。
本当は着替えたほうがいいことはわかっている。
でも時間が無い。
それに俺のコートに着られているような格好の貴方はなんというかとても可愛かった。
「いいよ、これじゃあ譲くんが寒いよ!」
「いいんですよ。これから自転車漕ぎますから」
なんとなくそんな予感がしていたから、コートの下にフリースを着ていた。だから問題は無い。
貴方を後ろに乗せて思い切りペダルを漕ぎ出した。
「しっかりつかまっていて下さい」
「うん」
二回、三回とペダルを力を入れて漕げば自転車はスーっと動き出した。
坂を下り、海へ。
夜明けまでもうすぐ。空はただ一面の青にだんだん白い光が満ちてくる。
貴方は寒いのか、怖いのかわからないけれど、しっかりと背中につかまっている。
指に込められた力が嬉しかった。
海岸についた時うっすらと水平線の彼方が白く光って、
一気に空が赤く染まった。
「あけましておめでとうございます、先輩」
「うん、譲くんおめでとう」
新しい年を貴方と。
約束のとおりに貴方にこの新しい年の日の出を見せたかったから。
こんな強引に連れ出してよかったのかな、と一瞬思ったけれど。
貴方は嬉しそうな顔でじっと太陽を見つめていたから。
これでいいんだ。と思った。
自転車のかごに乗せた鞄からポットを取り出す。
きっと寒いだろうからと暖かくて、甘い紅茶を入れておいた。
注いで渡せば貴方は大事そうに両手で包んで、ありがとうと言ってくれた。
少しの間凪いでいた風がまた吹き始める。
もうしばらく眺めたら帰ろう。
貴方が飲み終わったカップを受け取って自分もそれに注いで飲む。
自転車を漕いで汗をかいていたくらい温まっていた体も動かないでいれば冷えてくる。
紅茶の暖かさが体に染み渡っていった。
そして気付く。……これって間接キス、じゃないのか。
貴方もそんなことを考えていたのか一瞬照れて目を逸らした。
風に髪が靡いて顔が良く見えない。
なんとなく面白くなくて、髪をすいてみれば、貴方はびくっと反応した。
何故だか一瞬わからなかったけれど貴方の耳が赤い。
髪をすいたその手を一回転させれば、貴方は髪に引き寄せられてこっちを向いた。
新しい年の新しい日。
そんな日に、間接キスだけ、じゃなくて……。
「……あの、キスしてもいいですか?」
「えっ」
うろたえたのは嫌だからじゃなくて、きっと貴方もそんな期待していたんでしょう?
それにこうやって捕まえてしまえば、貴方は逃げられないから。
すっと眼鏡を外せば、貴方は観念したように一瞬だけ目を閉じた。
唇が触れるか触れないかのところで止めて見つめれば、貴方はうっすらと目をあけて
こっちの様子を伺っている。
「……いいんですよね」
「うん」
貴方の了解と共にゆっくりと口付けた。
二度、三度と角度を変えて唇をついばめば、
一回だけだと油断していた貴方はうろたえて逃げようとする。
でも貴方の髪を絡めとった指が貴方を逃がさない。
逃げようとしているのに、時折目を開ける貴方の瞳は潤んでいて、
自分勝手だとは思うけれど何だか誘われているような気になり、
夢中でキスを繰り返せば、貴方の息があがってしまった。
頬を高潮させて、懸命に呼吸を整える貴方が可愛い。
「すみません。……なんだか、止められなくて」
「そんなにされたら、うまく息が出来ないよ」
「すみません」
「譲くんのばか」
ぽかりと俺の頭を叩き、貴方はそっぽを向いてしまった。
でも、貴方は本当には怒ってないですよね?
そう尋ねれば、ぷいと貴方は横を向き、
とびきりのお汁粉を作ってくれるまで怒ったままだからね、と言った。
……それた単なるリクエストで、貴方は怒っていないんですよね?
流石にそれはきけなかったけれど。
ちゃんと鍋に用意されているそれで貴方は喜んでくれるだろうか。
俺は貴方を後ろに乗せて、もう一度ペダルを漕ぎ出した。