入学してから一ヶ月。
 やっと新しい学校の構造にも慣れてきて、
 移動するにも時間がかからなくなってきた。
 図書館はやっぱり中学のよりも充実している。
 部活を始めて時間が少ないとは言え、読みたい本だってある。
 今日は何を借りようか。
 そんなことをぼんやり考えながら
 渡廊下を渡って右に曲がろうとしたら不意に貴方の声がした。

「譲くん」

 振り向けば、貴方が笑っている。
 その笑顔に一瞬息が止まる。

「……先輩。
 今日よく会いますね」
「そうかな?」
「……よくわかりませんけど」

 一年と二年に学年が別れているのだから。
 休み時間ごとに顔を合わせるなんて。
 貴方は少し考えて、勢いをつけて何かを言おうとしていた。

「あのね」
「……はい」
「お昼予定ある?」
「特に、何もないですが」
「いっしょにおべんとう食べない?屋上で」

 ……ふたりで、ですか?
 そう言ってみたいけれど、きっと貴方には言えないし、
 貴方はそういう考えじゃない、とわかっている。

「せっかく揃ったから三人で食べようよ!」

 ああ、やっぱりそうか。
 にこにこして言う貴方の期待にこたえてあげたい。
 貴方はそれを言おうとして、俺を待ち伏せていたんでしょう?

「……はい。わかりました。
 じゃあ、四時限目終わったら先輩の教室に行きますから」
「ほんと?楽しみにしてるね!」

 にっこり笑って貴方は教室に帰って行った。
 ああ、もうチャイムが鳴るな。
 その背中をちょっと見送って、俺も教室へ戻った。

背景画像:空色地図

まちぶせ 譲望ver.