ずっとあこがれていたのは、あの席。
のぞみちゃんの向かい側。
お兄ちゃんは面倒くさそうだったけれど、
ぶつぶついいながらもまんざらでもなさそうにままごとにつきあっていた。
お兄ちゃんが、おとうさん。
のぞみちゃんが、おかあさん。
こどもが、ぼく。
いつもぼくがこども役だった。
おとうさんの役はいつもお兄ちゃん。
ずるい、そう思ってもお兄ちゃんはいつもおとうさん役はゆずってはくれなかった。
お兄ちゃんが他の子と遊びに行った時、
ぼくはおとうさんの役ができるかなと思っていたけど、
のぞみちゃんは二人だけだとままごとはやらなかった。
おとうさんとおかあさんとこどもがいないとつまんないもん。
そういって。
のぞみちゃんはお兄ちゃんがおとうさんじゃないといやだったのかな。
ぼくはのぞみちゃんに聞けなかったけど。
すごくすごくかなしくて。
いつのまにかにぼくはおままごとをやるのをやめていた。
…………そんな子供のころから俺は貴方の旦那さんになりたかったんだな。
そう思って苦笑する。
思い出し笑いをした俺を貴方は怪訝そうに見つめる。
「どうしたの?譲くん」
「ちょっと昔を思い出していたんです」
「昔ってなーに?」
「いや、おままごとのことですよ」
「ああ、やったね!将臣くんがお父さんで、わたしがお母さんで、
譲くんがこども」
「いつもそれで悔しかったんです。俺そんな頃からずっと、
貴方の旦那様になりたかったんだなあって思い出して」
貴方は目を丸くして俺を見る。
それはそうだろう。まさかそんな小さな頃からだ、なんて。
おかしいでしょう?そう笑ってみせる心の準備をする。
「でも、それごっこ遊びだもん」
「まあ、そうですね」
「本当の旦那さまは譲くんでしょ?」
「……いいんですか?」
思わず貴方の顔をじっと見つめてしまい、貴方は照れて俺から目をそらす。
貴方がそんなことを言ってくれる日がくるなんて思っていなかったから。
じわっと暖かさが胸に満ちてきて。
……貴方にもそれが伝わったらいい。
俺は貴方に手をのばし、腕の中に閉じ込めた。