「おい、こんなもんが出てきたぞ」

 ふうっと吹けば白いほこりがもわっとあがる。
 吹いてから持ってきてくれよ、と非難する譲の声に耳を貸さずに
 将臣は箱の蓋を開けた。
 中から出てきたのは小さなブリキの食器たち。
 昔おままごとに使ったものたちだった。

「うわー、懐かしいね」
「蔵の整理をしてたら出てきたんだ」
「ちっちゃーい」

 望美はカップをつまみ上げて目を細める。

「兄さん、そんなのいちいち持ち出してたら蔵の整理終わらないよ」
「いいだろう、少しぐらい昔の思い出に浸っても」
「そうだよ」
「……先輩は少し黙っていてください。
 そうやってさぼるからいつまでも蔵の中が片付かないんですよ」
「じゃあ、お前がやったらいいだろ」
「今年は兄さんの係なんじゃないか。
 俺はこれから庭の手入れしなきゃいけないんだから手伝えないよ」
「手入れって何するの?」
「そろそろ庭の木の枝を払わないと。
 あと落ち葉も溜まってますからそろそろまとめたいんです。
 先輩、お芋買ってあるんであとでそれで焼き芋にしましょう」
「ええ!やったあ!!」

 望美は満面の笑みを浮かべて譲を見る。
 将臣は面白くなさそうに呟いた。

「望美はそうやって譲に餌付けされてばっかだとそのうち太るぞ」
「太らないもん!運動してるし!!」
「じゃあ運動させてやるから蔵の整理お前も手伝え。
 焼き芋はそのご褒美ってことでいいだろ、譲」
「何、勝手に決めてるんだよ」
「もう、喧嘩しないでよ!」

 望美は呆れて将臣と譲を見た。

「でも、懐かしいね。将臣くんがおとうさんで、
 わたしがおかあさん、譲くんが子供役だったよね、いつも」
「そうだな」
「……そうでしたっけ」
「そうだよ。
 でも今この三人でやるとしたらどうなるかな」
「譲はオカンだな。……気味が悪いけど」
「じゃあ兄さんが子供だな!」
「じゃあわたしがおとうさん?なんか変だよ。
 ふたりとも何意地になってるの?」
「なんでもありません!」

 譲は立ち上がり、サンダルをつっかけて勢いよく温室へ消えていった。
 望美はため息をつき、将臣はくつくつと笑った。

「譲くん怒らせちゃった。将臣くんあとで後悔しても知らないよ?」
「別に譲が怒ったのは俺のせいだけじゃないんだぜ」

 にやりと笑った将臣だったが、後で後悔することになる。

「……何で俺の芋だけ黒こげなんだよ!」
「アルミホイルの巻きが甘かったみたいだ。ごめんよ、兄さん」

背景画像:ミントBlue

おままごと 譲望ver.