「お菓子くれなきゃいたずらするぞ」
「……そこにあるから勝手にどうぞ」
将臣は大袈裟にため息をつく。
「譲!ノリが悪いぞ」
「兄さん相手に何しろっていうんだよ」
ぼぞりと言った譲にまあ確かにと将臣も相槌をうつ。
きゃー怖いーとか言われても気持ちの良いものでもない。
でも行事は楽しんでこそ、だろう。
「ほら」
投げてよこされたクッキーはゴーストの形をしていて、
チョコレートとナツメグの香りがする。
齧ればほどよく甘く、さっくりとうまく焼けている。
「お前本当にこういうのうまいな」
「どうも」
「いつでも嫁にいけるなあ」
余計なお世話だ。
という声と同時に今度はクッションが飛んできた。
「なにすんだよ」
「どうでも良いけど食べ過ぎるなよ。それ、先輩の分もあるんだからな」
譲が台所にゆき薬缶に火をかける。
薬缶のオルゴールがピーとないたとき、
ガラっと戸が開く音がして望美が飛び込んできた。
「トリックオアトリート!!!!」
「ああ、先輩焼けてますからご自由にどうぞ。もうお茶も入りますから」
「ありがとう!!でも、譲くん、ノリ悪〜い」
「譲ってノリ悪〜い」
「…………俺がノリが良かったらその方が気持ち悪いじゃないですか」
そうかも、と目を見合わせる望美と将臣にため息をつき、
譲は三つのカップに紅茶を注いだ。