「譲くんって、よくコーヒーブラックで飲めるね」
感心したように望美は譲のカップを見つめる。
「別にブラックが好きな訳でもないですけど。
今はブラックの気分だったんです」
今日は学校が休み。
今朝焼いたのショートブレッドはいい具合に湿気がぬけて、
サクッと軽く出来ている。
まあ合格点だろう、譲は冷静に思う。
先輩が朝メールでおやつたべたい!と言ったときに冷蔵庫にあったもので、
出来たのはショートブレッドだけだった。
パウンドケーキを焼ければ、と思ったのにバターが少し足りなかったのだ。
できればパウンドケーキを焼くならちゃんと入れるフルーツだって用意したい。
ドライフルーツを刻んだ簡単なものだけれど、前の日から漬けておいた方が、
味が馴染んでおいしいし、香りだっていい。
それでショートブレッドにしたのだ。望美は喜んでくれたのでほっとする。
「よくこんなのすぐ作れるね」
「ショートブレッドは簡単ですよ。でもちゃんと冷まさないとおいしくないんです。
やっぱり、サクッとしてないと」
「売ってるやつよりおいしいよ」
「ありがとうございます。
でも、まあ売られてるものより出来立てでバターの香りが損なわれないから、
自分で焼くほうが俺も好きです」
望美はコーヒーに牛乳とクリープを両方入れる。
譲には理解できないが、望美はこうするのが好きなのだ。
今日のコーヒーも、まあうまくいれられたかな。
合格点を出す。
そんな譲を望美はじっと眺めて
「やっぱりずるい」
「何がですか」
「コーヒーをブラックで飲めるなんて。なんか大人っぽいもん」
「……そうですか?
どうやって飲んだら格好いいとかじゃなくて、
どう飲むのがおいしいかが大事だから別にいいんじゃないかと俺は思いますが」
むう。
ソファで膝をかかえてカップを抱き込むようして望美は不服そうに譲を見つめる。
目の前の人より大人に見えるようになりたくて、
必死でブラックコーヒーを飲み、兄にからかわれていたことを思い出し、
譲はこっそり思い出し笑いをした。