明日の分の予習を終える。
 普段はここまできっちりやらない。もう少しさらっとさらう程度だ。
 けれど明日は月曜日、数学があたるのだ。
 まあこの程度やっておけばなんとかなるだろう。
 あたる順番がずれなければ、まず大丈夫。
 く〜っと背伸びをし、机から立ち上がり、カーテンを開ける。
 秋の空は一等星や華々しい星座はないけれど、
 空が澄んでいるからか、星が綺麗に見えて好きだった。
 窓を開けると、ひんやりとした秋の夜の空気に金木犀の香りが漂っている。
 これは、先輩の家の庭から漂う香り。
 貴方もこの香りを感じているのか、……もう遅いし寝ているのか。
 向かい側の窓を見る。電気はついていない。
 そうだろう、貴方は夜も弱いから。

 ブルブルと携帯電話の着信を知らせるバイブの音がした。

 時計代わりに机の上に置いていたから、
 それはとても大きな音を立てたのであわてて取る。
 こんな時間にかけてくる人は貴方しかいない。

「ゆずるくん?」

 電話の向こう側の貴方のこえはふにゃふにゃととても眠そうだ。
 目をこすっているような気配を感じて俺はくすりと笑う。

「まだ、起きてたんですか?」
「……うん。星、綺麗だね」

 俺はあわてて窓際へ戻る。
 貴方は窓からひらひらと手を振って見せた。
 俺もちいさく振り返す。

「もう遅いから寝てください」
「うん、でもゆずるくんに、おやすみっていいたかったの」

 耳元から伝わる声にじわっと胸が温まる。
 いちにちの終わりに。
 貴方のおやすみで眠れる、なんてしあわせなことなんだろう。
 貴方にこの嬉しさがつたわりますように。
 貴方が良い夢を見れますように。夢であえたらもっと嬉しい。
 そんな気持ちが伝わればいい。

「俺も、貴方におやすみが言いたいです」
「うん。ゆずるくん、おやすみ。またあした」
「おやすみなさい。また、明日」

 貴方はもう一度窓から手を振って、電話を切った。
 貴方はあのカーテンの向こう側でベッドにもぐりこんだだろうか。
 俺も、もう寝よう。
 このしあわせに包まれて。
 また明日、おはようで一日をはじめよう。
 貴方と。

背景画像:ミントBlue

一日の終わりに 譲望ver.