「ありがとう、譲くん」
「いいんですよ」
先輩からの突然の電話。
電話の向こう側でパニックを起こした先輩に何があったと思ったら。
……自転車のチェーンが外れて途方にくれているという。
とりあえずそのまま待つように伝えて、
徒歩でその場所に向かって合流したのがほんの五分前。
自転車に乗って行ったら、もう少し早くつけたのだけれど、
先輩の自転車を押して帰ることを考えてやめた。
「将臣君ちっとも電話に出てくれないんだもん」
「兄さんそういう面倒事に関する勘が鋭いですからね」
ぶーっと頬を膨らました貴方に思わずふき出す。
貴方はそう言うけれど、電話に出てくれなかった兄さんに密かに感謝する。
こうして貴方の自転車を押して、貴方とこうしてあるく時間は俺にとってはとても貴重で。
貴方の歩調に合わせて少しゆっくりと歩けることすら幸せで。
兄さんの次、だったとしてもこうして頼られているのも気分が良い。
今日の晩御飯は兄さんの好きなカレーにしてやったっていいくらいだと思いつく。
……本当に現金だな、俺は。
貴方は簡単に俺に幸せを運んできてくれる。
「今晩カレーにするつもりなんですが、先輩食べていきませんか?」
「いいの?」
「自転車を直すの少し時間がかかりますし、たまにはいいでしょう?」
「やったー!!」
お母さんにメールしなくちゃ!
そう言って向けてくれた貴方の笑顔に幸福で息がつまりそうになる。
ついでに夕飯の買い物していきましょうと提案してみた。
少し遠回りになるけれど、貴方と少しでも一緒にいたいから。