唇を離せば、花梨は幸鷹さんのばか、と呟いた。
 いきなりのキスは恥ずかしかったのか、花梨は耳まで赤くなっている。
 私が見たかったのはその顔。
 キスをしてもそれ程照れなくなったのは嬉しくもあり、寂しくもある。

「ばか」

 そう呟く非難すら私には甘い。

「すみません」

 本当に悪いなんて思ってもいないんでしょう?
 花梨はそういうとそっぽをむいてしまった。
 恋をする二人が本当に二人きりになれる場所なんてそうはない。
 その数少ない機会が観覧車なのか。
 そう思い至った自分の思考がおかしかった。
 昔ならあれは眺望を楽しむためだけのものだと思っていたから。
 けれどそんなことを思いつく今の私も別に嫌いではない。
 私の部屋で会うならふたりきりは別に難しいことじゃない。
 でも、外で会うときは意外にその機会は難しい。
 この世に二人きりなんて錯覚を味わえる貴重な場所。
 けれどそれは頂点に達する一瞬のみ。
 でも、その一瞬だけはこの世に今二人だけと錯覚が許される。
 一瞬だからいいのだろう。
 窓の向こうに見えていた、向かいの車が視界から消えた一瞬を狙い、
 貴方に口付けた。
 照れてそっぽを向いた花梨は、下に着くまでこっちをむいてくれなかったけれど、
 降りてから、嫌でしたか?と尋ねれば。
 嫌じゃなかった自分が恥ずかしいんです、とさらに頬を染めて俯いた。

背景画像:10minutes+

観覧車 幸花ver.