四条の館の主は尼君。この雨風では男君不在の館は心許ないだろう。
この雨では花梨殿の散策などはないだろうしと、朝参の帰り一旦六条に向かいかけた牛車を、
四条に向かわせる。
雨風はみるみる強くなり、牛車の中に吹き込む雨に舌打ちする。
これなら馬のほうがまだましかもしれない。
けれど朝参に馬で向かうわけにも行かず、とりあえず出来うる限り急がせたものの、
四条の館についた時には濡れそぼっていた。
かえってご迷惑になっただろうか。
そう思っても更に強まった風の中帰ることは困難だった。
諦めて先触れを出し、迎え入れられれば先に尼君に挨拶した。
女房たちの多くは強い雨風に畏れ慄きたいして何も用意出来ていなかった。
随身の男手がいただけでも良かったのかもしれない。
風が強まり降りなくなった妻戸を片端から下ろさせ、錠を下ろす。
あらかたの始末を終え、びしょ濡れになった随身の歓待を古株の女房殿にお願いし、
花梨殿のいる対の屋に向かえば。
花梨殿はわずかに見える隙間から楽しそうに外を眺めていた。
声をかければ、驚いて振り返る。
「幸鷹さん!どうしたんですか?」
「こちらが心配だったものですから」
「とりあえず、火にあたって下さい!そのままじゃ風邪ひいちゃいます」
濡れた衣も乾かさなきゃ、と花梨殿は強引に私の衣に手を掛けようとし、
ふと笑顔になった。
「幸鷹さんっていつもきちんとしているのに。
髪も服もぐしゃぐしゃで。なんだかイメージが違いますね」
「この様な姿で申し訳ありません」
「そんなことないですよ。
一生懸命来てくれて、嬉しいです」
花梨殿は変なことを言ってすみません、と顔を赤くした。