花火に行くのに浴衣を着ることになって。
 悪戦苦闘しながらどうにか着た浴衣は、幸鷹さんの部屋につく頃には
 少しくたびれた様子になってしまった。
 幸鷹さんに苦笑いされて、一度脱ぐように言われて渋々脱ぐと、
 ささっとアイロンをかけ直され、きっちりと着付けられてしまった。

「……着付け、できるんですか」
「まあ慣れていましたからね」

 帯の可愛い締め方がわからなかった幸鷹さんは簡単にネットで調べると
 器用に一文字結びにしてくれた。
 わたしの着付けが済むと幸鷹さんはざっと浴衣を着て腰紐を締めた。
 その手際は鮮やかで、確かに幸鷹さんは着物になれているなあ、とぼんやりと思った。
 幸鷹さんは帯の柄をしげしげと眺めている。

「……どうかしたんですか?」
「青海波、懐かしいですね」
「懐かしい?」
「ええ」

 幸鷹さんはざっと帯を締めると、袖を軽く振った。

「……侍従として御所に上がって暫くした頃、これを舞って紅葉の枝を賜りました。
 特に舞が得意だったわけではありませんが、そんなこともあったなと思い出したんです」
「青海波、ですか」
「この波の模様の入った装束で舞うのが決まりなのですよ」
「そんなに昔からある柄なんですか」
「海の向こうから渡ってきた柄だそうですから」
「……そうなんですか。
 でも舞を踊る幸鷹さんかぁ……見てみたかったかも」
「そうですか?」

 あちらのことを想って、二人でしんみりしていたら、
 外からどん、と花火の打ちあがる音が聞こえた。

「始まってしまいましたね。では、行きましょうか」
「はい」
「花梨のその千鳥柄の浴衣も、あちらの水干姿が思い出されてとても懐かしいですよ」
「そうですか?
 わたしもそんな気がしてこの柄を選んだんです」

 幸鷹さんがわかってくれてよかった。
 幸鷹さんが手を差し伸べてくれたので、わたしはその手につかまって、
 慣れない草履に苦戦しながら、河原への道を歩き出した。

背景画像:空に咲く花

浴衣と花火 ー青海波ー 幸花ver.