「雨ふっちゃいましたね。折角の七夕なのに」

 ガラス越しに空を見上げれば雨が降り続いていた。
 幸鷹さんはソファで本を読んだまま、

「旧暦の時期ならもう少し晴れ間も見えるでしょうけれど、
 今は梅雨ですから仕方がありませんね」
「今年はじゃあ織姫と彦星は会えないのかなあ……」
「残念ですか」
「まあ、会えたほうがいいじゃないですか」

 幸鷹さんはぱたん、と本を閉じソファから立ち上がり、
 わたしの隣で一緒に外を眺めた。
 しとしとと静かに雨が降っている。

「そうですね。
 私も貴方に会えなくなると思うと辛いです」
「わたしも考えたくないです」
「七夕に降る雨を催涙雨と言うのだそうですよ。
 七夕に降った雨が、天の川を溢れされ二人の逢瀬が叶わなかった悲しみが
 牽牛と織姫の涙を誘うことからそういうのだそうです」
「何だか悲しいです。
 でもきっと旧暦の七夕で会えますよね」
「ええ、きっと。
 でも私には一年に一度の逢瀬など耐えられない。
 きっとなんとしても貴方に会いに行ってしまうでしょうね」

 幸鷹さんは真剣な顔で言った後、思い直したように照れて笑う。
 でもその笑顔にわたしの心臓が耐え切れそうになくて、
 腕が伸びて、抱きしめられそうになるのをするりと逃げた。

「コーヒーいれてきますね」

 そう言って逃げたわたしを、仕方ないなという風に幸鷹さんは笑ってくれた。

背景画像:Abundant Shine

七夕 幸花ver.