「なにこれからい」
うえっ、となったわたしを幸鷹さんはくすりと笑った。
あちらの世界なら、飲酒はもってのほかで絶対にお勧めしませんが。
新年ですし、こちらなら貴方はもう大人ですからね。
にっこり笑った幸鷹さんが少し注いでくれたお酒を舐めて、わたしは悲鳴をあげた。
幸鷹さんがあんまりにもおいしそうに飲み干すので、ちょっと興味がわいたのだ。
紫姫はおろおろしていた。
「ほら、姉上」
「ありがとう」
みっともない、と顔に書いてあるけれど深苑くんはしぶしぶ水をくれた。
わたしはそれを受け取ると一気に飲み干した。
それを見て幸鷹さんは堪えきれずに噴き出した。
「幸鷹さん!」
「……いいえ、貴方らしいと思ったのですよ」
「幸鷹さんがあんまりにもおいしそうに飲むから美味しいのかなって思ったんです」
「まあ、この酒は少々辛めですからね。
もっと口当たりの甘いお酒もあるにはありますが」
「わたしが子供だからお酒の味がわからないんでしょうか」
しょぼん、と俯いたわたしに幸鷹さんは微笑する。
「そのうち貴方にもわかりますよ。
わからなくとも、貴方とこうして膳を囲むのは嬉しいですから良いではありませんか」
「でも、何かちょっと悔しいです」
「それでは今度貴方にも楽しめそうな甘い酒を探しておくことにしましょう」
「本当ですか?」
「ええ」
にっこり笑って幸鷹さんは約束してくれた。
「こうして、新年を祝う膳を囲めて嬉しいですよ。
宴続きで少々飽きていましたが、貴方と祝えて嬉しい。
訪れるのが間遠になってしまい申し訳ありませんでした」
「こうやって来てくれたから、いいんです」
「姉上は、幸鷹殿がいつ来るか待ちくたびれておられた。
暇になると紫や私に絡んでうるさい。もう少し幸鷹殿には足繁く通ってもらわねば困る」
「兄様っ」
深苑くんの言い様に紫姫は困りきった顔をしたけれど、
深苑くんは別に幸鷹さんを責めたわけじゃない。
幸鷹さんもそれがちゃんとわかっているから笑っていた。
深苑くんはわたしが寂しがらないように幸鷹さんに来て欲しいと言ったんだ。
そんなに寂しがっていたかな。
ちょっと寂しかったかな。
「少しの時間でもお会いできればよかったのですが。
宴となると酒を勧められる席ばかりでしたので」
「勧められるのが酒ばかりなら良いのだが」
「兄様っ」
「宴の席で酒と共に女性を勧められるのは常套手段ではないか。
……何もなければよいのだがのう」
「幸鷹殿に限って……そんな」
紫姫は真っ赤になって俯いた。
わたしにだってその意味は今はわかる。
そんなことがあったら嫌だな。そう考えたのがそのまま顔に出たのだろう。
幸鷹さんは笑って、わたしの手をとった。
「深苑殿は心配性ですね。
私には花梨以外は必要ないのです。
ただ……酒臭いまま訪れるのは気が引けたので遠慮させて頂いたのです」
「幸鷹さんって酔うとどうなるんですか?」
「……さあ、自分では良くわかりませんが。
花梨は興味があるのですか?」
こくり、頷けば。
幸鷹さんは少し考える仕草をした後、破顔した。
「では今度は寄らせて頂く事にしましょう。
貴方に介抱して貰えるのなら、少し飲みすぎるのもいいかもしれません」
「えっ」
「まだまだ宴の日々は続きますから。
よろしくお願いしますね、花梨」
冗談ですよ、と言ってくれるのを待ってみたけど、
幸鷹さんはにっこりと笑ったままだった。