秋の神護寺。
貴方と駆け巡った京の神護寺とは少し違うのかもしれない。
でもかつて貴方が愛していた場所。
その面影を残す場所。
今、紅葉の時期に約束どおり二人で来ることが出来た。
泊りがけは難しいから、日帰りだけど。
神護寺に行ってしまうと他の場所があまりまわれなくて申し訳ありません。
貴方はそう言っていたけど、幸鷹さんが一番訪れたいと思っている場所だって知っていた。
「石段はほとんど同じような感じですね」
「そうですね。
でも、紅葉が本当にきれい」
「……いい時期に貴方をお連れで来て本当に良かった」
赤、黄に紅葉した落ち葉を踏みしめ、見上げた門は、
思い出の中のそれとほとんど同じような気がした。
幸鷹さんはきゅっとわたしの手を握る。
「あちらに残ってもきっと貴方とこうして訪れたのでしょうね」
「そうでしょうね。
もしかしたら、幸鷹さん、お休みとかとって行ったかもしれませんね」
「お休み、ですか?」
貴方は思案顔になった。
「お休み、とったこと、無かったんですか?」
「物忌み、方忌みや暦の上での休みは休んだ覚えはありますが、
自分から休暇は取ったことがなかったように思います。
……仕事以外の楽しみをほとんど知らなかったように思いますので」
幸鷹さんは楽しそうに笑った。
「確かに貴方と一緒なら。
私はあちらで人生初めての休暇を願い出たかもしれません。
花梨とこんな風に過ごす為に」
「きっとあっちの紅葉も綺麗でしょうね」
「そうだと、思います。
……みんな元気にやっていると思いますよ」
「はい」
しっかりと握った手から、暖かい気持ちが流れ込んでくるような気がした。
幸鷹さんは不意に思案顔になって、
「このような神聖な場所で、と思いましたが。
境内に入らなければ、お許しいただけますよね」
ふいに貴方はやわらかく、軽いキスをした。