ああ、春だなあ。
桜は終わってしまったけれど、新しい葉の明るい緑はみずみずしくて綺麗だ。
そんなことを思いながらぼんやりと校門を出たら、
「花梨!」
幸鷹さんの声がした。
見回せば見慣れた車。
窓を開けて幸鷹さんが手を振っている。
「幸鷹さん!どうしたんですか?」
駆け寄れば、幸鷹さんはいたずらっぽく笑って
「今日時間があいたので。
お迎えに来てみようかと思ったんです。
こうして免許もとった事ですから、少しドライブでもと」
「連絡くれたらよかったのに。
……部活あったらどうするつもりだったんですか?」
「……まあ校門で待っていれば大丈夫だろうと思ったんですよ。
花梨は今日は部活の無い日だとわかってましたし。
貴方を待つのは苦ではありませんから」
にっこりと笑う幸鷹さんにふにゃりと力が抜ける。
振り返れば下校する皆はこっちをみている。
「……一応、校則で異性交遊は禁止になっているんですけど」
幸鷹さんは苦笑いすると車を降り、
助手席のドアを開けてくれた。
「交遊ではないのだから、いいでしょう?
貴方と私は将来を誓い合っているとでも言えばいいのです。
もう婚約しているようなものですから」
「幸鷹さんってば!」
開けて貰ったドアから助手席に滑り込んでカチリ、とシートベルトを閉める。
幸鷹さんはそれを確認するとゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
「いきなり来るのは失礼かな、と思いましたが。
貴方を驚かせてみたかったのです。
学校にいる時の貴方を私は知ることができないから、
校門まで歩いてきた貴方の顔を見れたのはとても貴重な体験でしたよ」
「幸鷹さんが不意打ちなんて珍しいから。びっくりしました」
「驚いた貴方も可愛らしかったですよ」
もう!
ぽかりと腕を叩けば、運転中ですからと困ったような声で幸鷹さんはわらった。