満開の桜を見にかなりの人が集まっている。
桜によっているのか、それともやっぱりお酒に酔っているのか。
みんな満面の笑みだ。
少し酒臭いその場を、幸鷹さんと苦笑いして通り過ぎた。
幸鷹さんのお休みの日に、桜が満開で、しかも天気も良いなんて。
いつも頑張っているご褒美ですね、と言えば。
幸鷹さんは笑ってくれた。
感慨深げに幸鷹さんは桜を見上げている。
「久々に見るソメイヨシノは壮観ですね」
「久々?あっちにも桜はたくさんあったでしょう?」
幸鷹さんはちょっと寂しそうに教えてくれた。
「ソメイヨシノは江戸時代に品種改良で生まれた桜ですから。
あちらにあったのは枝垂桜や、山桜ですよ。
でも墨染の桜などはとても見事でした」
「そうなんですか!」
「貴方にもお見せしたかったですね。
とても美しかった京の桜を」
青空に咲く桜を見上げている幸鷹さんの瞳が少し遠くを見ているようで、
わたしは思わず腕をぐっと掴んでしまった。
「……京は無理でも、京都の桜は見れますよ」
「…………そうですね」
「いつか一緒に見たいです」
きゅっと握った手から伝わる温もり。
優しい目をした幸鷹さんはおどけて言った。
「日帰りは難しいでしょうから、旅行になりますね」
「!!」
「ちゃんとご両親の許可を戴きましょう。
なんなら新婚旅行でも、いいですね」
「もう!!幸鷹さんってば!!」
ばか!と胸を叩けば、幸鷹さんは笑って、
穏やかな顔で桜を見上げた。
「……同じ場所は無いかもしれませんが。
いつか貴方とまた京をめぐりたい。ゆっくりと時間をかけて」
「桜もいいですが、あの時みたいに……紅葉も見たいです」
「雪景色も、見事ですしね」
ざあっ。
不意に吹いた強い風に桜の花びらが舞い上がった。
はらはらと落ちて来たそれを見つめてふたりが思ったのは多分、同じこと。
「何度でも、行きましょう。
貴方と一緒に見たいのです。あの街を」
頷けば、幸鷹さんは微笑んで、改めて手を差し伸べてくれた。
二人で手を繋いでどこまでもいこう。
いけるところまで。
ずっと、一緒に。