ルーズリーフが切れた、という花梨と共に店に入る。
ここはいつも明るくて、ディスプレイも綺麗でお茶も飲めるから。
幸鷹も花梨も気に入っている店だ。
ディスプレイは冬暖かくなれそうなものが並んでいる。
花梨がじっと何かを見ているのに気付き、
幸鷹は声をかけた。
「何を見てるんですか?」
「これ、可愛いです」
花梨が見ていたのはゆたんぽ。
大中小とまるで親子のように重ねられてディスプレイされている。
毛糸を着ているようなそれを確かに幸鷹も可愛いと感じる。
じっと見ている花梨に声をかける。
「気に入りましたか?」
「そうですね。暖かそうだな〜と思って」
「……あちらは寒かったから、こんなものがあったら便利ですね」
「このポンポン紫姫好きそうだな」
花梨は白いポンポンを指でちょいちょいと触る。
確かにあの姫はこういうものを好むだろう。
「花梨は欲しくないのですか?」
「えっ、まあ」
照れて花梨は目をそらす。
花梨はいつまでも強請るということが苦手だ。幸鷹は笑ってため息をつく。
それが花梨のいいところでもあるのだけれど。
たまには強請ってみてもいいのに。
花梨の喜ぶ顔を、幸鷹は見たかった。
「わたしにはぽんぽん付きのは可愛すぎます」
「じゃあ、こっちのボーダーのはどうでしょうか」
「こっちも可愛いですね」
貴方は手にとって持ち上げてみる。
赤と白のボーダーは貴方によく似合う気がした。
暖色系のシンプルなファブリックでまとめられたあの部屋に、
それがあってもいい気がする。
幸鷹はひとつ手に取り、レジに向かった。
花梨は驚いて、幸鷹を引き止める。
「ちょっと!悪いです!そんなの!」
「私が貴方にあげたいだけなんですが」
「でも!」
幸鷹は少し思案して。これではどうですか?と悪戯っぽく笑った。
かごに入れたのはグレーの色違いのもの。
「お揃いで持っているのも悪くないでしょう?」
「……幸鷹さん」
困った顔で見上げているのはかなり心が揺れている証拠だろう。
そういう花梨の心根の健やかなところがとてもいいと思う。
けれど。
貴方の喜ぶ顔が見たいから。
幸鷹はすっとレジに入り、ラッピングをしてもらう。
そしてどうそ、と花梨に手渡した。
花梨は困った顔を一瞬したけれど、その袋を抱えなおして照れたように笑った。
……ゆたんぽもいいんですが、出来れば貴方のほうがいいんだけれどな。
そう口に出したら貴方は照れて怒るだろう、幸鷹は大事そうに袋を抱える花梨を見詰めた。