花梨の真剣な眼差しに少し怯みつつ、幸鷹は思い出そうとする。
「幸鷹さんのファーストキスっていつですか?」
そんな涙目で迫られても。
……覚えていないのだ。仕方ない。
誰としたかも、何処でしたかも。
記憶力のいい幸鷹さんだったら絶対覚えてるはず、そう言い切られて弱る。
……わたしだってそんな全てを覚えているわけじゃないんですよ?
そう言ってみても。
「そうやってごまかそうとしてるんでしょう?」
頬を膨らませて貴方は拗ねてしまう。
いや、そんなつもりはと慌ててみても効果がない。
少し考える。
では貴方はどうなのか?と。
「わたしは多分、うーん。
幼稚園の時かなあ」
……幼稚園、ですか。
それはほっぺにちゅうとかそういうレベルの?
「いいえ。ちゃんと唇に」
えっ。
それは少し早くないですか?
貴方は照れてそっぽを向く。
折角のデートで他の男の思い出に浸らせられるほど、
わたしは了見の広い男ではないんです。
あまずっぱい初恋の思い出に浸る貴方の顎をとらえて、キス。
いきなりキスをしたわたしに貴方はずるい、と怒るけれど。
別にいいのです。
貴方以外にしたキスなど全て忘れてしまっても。
貴方もわたし以外としたキスなんて全て忘れてしまえばいい。
ああ。わたしは本当に了見の狭い男ですね、そういうと。
貴方はほっぺたを膨らませたままだったけれど、
ぺたりと腕にほほを寄せた。