夢の誘い
マリアと飲んだサングリアのせいか、熱くてふわふわする。
これが酔ってるってことなのかな?
何か火照ってきたので風にあたりたくて、ちょっと出てくるね〜と
声をかけたけれど、もう皆出来上がっていて適当な返事しか返ってこなかった。
ラウンジを出て、テラスに向かう。
夜風はきっと気持ち良いだろうな、と思って窓を開けたら先客がいる。
暗さに慣れない目を凝らして見れば、ヨハネだった。
「……テレサか。
騎士団長たちとラウンジでパーティなんじゃなかったの?」
「うん。
何か風に当たりたくてちょっと抜けてきちゃった。
ヨハネは?」
「死祭騎士団の数人と呑んだけど、皆もう引き上げてしまったよ。
皆研鑽に余念がないからね」
「ふーん」
「他の騎士団の連中はまだ飲んでいるみたいだけど、
ここから見る月が綺麗だから、見に来たんだ」
月光の下で見るヨハネの横顔はいつもと少し雰囲気が違う。
それは暗がりの中で見た顔だからとはまた違う理由のような気がした。
ヨハネはいつも笑顔なのに、今日はそんなに笑っていないからだろうか。
「テレサ」
「なあに?」
「君は肉親のことをどう思っているの?」
「よくわからないよ。会ったこともないから」
「会いたいとは思う?」
「……わからない」
「……君をひとりにして憎んでいる?」
「憎んでいるって言うか、本当にわからないだけ。
ルノーのおじいちゃんもおばあちゃんも本当に優しかったから。
一緒に暮せて幸せだったって思ってるし、
おばさんも良くしてくれるから」
「そう」
なんでそんなことを聞くんだろうとは思うけれど、
お酒が入っているせいか、うまく思考がまとまらない。
正面からわたしを見つめるヨハネ。
ヨハネってこんな顔をしていただろうか。
「君、酔ってるの?」
「ちょっとのんだから」
「そう。
……じゃあ、ちょうどいいかな。
この会話もきっと明日には忘れる」
ヨハネはわたしの目を真っ直ぐに見つめ、わたしはそれに釘付けになった。
心まで見透かされそうなその目。
ヨハネの声が『切り替わった』。
「テレサ」
「なぁに?」
「俺と一緒に行かないか?」
「……どこへ?」
「ここではない何処かへ。騎士団から離れて。
君が望むのならルノーも一緒に」
「無理だよ」
「俺と一緒なら何処へでもいけると思うけど」
「……わたしは皆の側にいたいよ」
「今を逃したら、もう全てが終わるまでここにいるしかない。
最後のチャンスなんだ」
最後のチャンス?
なんのことだろう?
どんどん頭が重くなる。
冷や汗をかいて立っていられなくなる。
手すりにすがりつくようにしてなんとか倒れないように姿勢を保つ。
「忠告はしたよ。
君は最後のチャンスを逃した。
もう、ハッピーエンドは訪れない」
視界が真っ黒になって、自分が意識を手放そうとする中、
君と一緒にいけたらよかったのに。
そう呟く声を聞いた気がした。
目を開けたときにはラウンジのソファーに寝かされていた。
視界に入ってくる皆の顔を見回すと、それぞれがほっとため息をついた。
いつまでもラウンジに戻らないわたしを心配したルノーが、
ユージィンと一緒に探してくれたらしい。
テラスで倒れていたわたしをユージィンがここまで運んでくれた。
「テレサ、大丈夫か」
「頭いたい、気持ち悪い……」
「軽い急性アルコール中毒だろう。
とりあえず水を飲みなさい」
「うん……」
ショナから渡された水を飲み干す。
残念だよ。
不意にその言葉が蘇った。
何が残念なんだっけ。
誰かとわたしはテラスで会っていたの?
「ユージィン」
「なんですか?」
「テラスに他に誰かいた?」
「いいえ、貴方一人でしたが、何か」
誰もいなかった?
考えると頭がズキリと痛む。今はもう何も考えたくない。
明日になったら思い出せるだろうか。
月の下で会った誰かのことを。
それとも思い出さないほうがいいのだろうか。
……何か良くない言葉を言われた気がするから。
目を覚ましたわたしを見て皆は安堵したのか、また思い思いに楽しみだした。
わたしをそれを見ながら安堵して、そして全てを忘れてしまった。