Christmas2012




  −6−


 レヴィアス様は片付けは明日でもいいって言ってくれたけど……。
 片付けものが終っていないのはなんだか落ち着かない。
 一度ベッドに横になってうとうとしていたものの、気になって目がさえてしまった。

「……気になって眠れないんなら、片付けちゃっても同じだよね」

 むくりと起き上がり、軽く上着を羽織ってラウンジに向かう。
 わたしが寝た後、皆も引き上げたのかそれとも他の場所に移ったのか、
 ラウンジには人はなく、パーティのざわついた空気が少し残るばかりだった。
 食器もテーブルセットも部屋に戻る前のまま。
 だけど気持ちいいくらいに皆食べてくれたから残り物はほとんどない。

「これくらい食べてくれると本当に作りがいはあるよねー」

 作りがいはあるけど片付けはまた別だ。
 さて、何処から手をつけようか。
 腕まくりをして気合を入れてとりあえず片付けをはじめたら、
 ノックの音と共にドアが開いた。

「はーい」
「……お前か。どうした、こんな時間に。
 先に休むと言っていただろう?」

 怪訝そうな顔でカーフェイが入ってきた。

「カーフェイこそどうしたの?」
「こちらの宴会が終ったので、流影騎士団の連中と呑みなおしていたら
 ここの明かりがついたので見に来たところだ」
「迷惑だった?ごめんなさい」
「明日片付けるのではなかったのか」
「……何だか片付いていないのが気になって」
「そうか。
 この量ではひとりでは終らないだろう」

 手甲を外し、袖をまくったカーフェイがてきぱきと片付けに加わってくれる。

「えっ、いいよ。
 わたしひとりでやるから」
「お前一人では終らないだろう。
 二人でやればすぐ済む」
「でも……」
「……いつもお前に任せきりにしているからな。たまにはいいだろう」
「ありがとう、カーフェイ」

 カーフェイが手馴れた様子で片付けを進めていく。

「何だか慣れてるね」
「今はお前たちの『仕事』だから任せているが、
 別にできないわけではないさ」
「そうなんだ」
「『仕事』を奪えばお前の居場所が危うくなるだろう?
 それはしてはならないことだからな」
「……そっか。
 でもその感じだとカーフェイって料理とかも出来そうだね」
「まあ困らない程度にはな。
 こうしてお抱えの料理人がいる傭兵団の方が珍しいだろう」

 カーフェイは肩をすくめて笑った。

「まあ、少し贅沢かなぁって思うことはあるよね」
「……でもそうでないと生きていけない人種もいるのだから、まあ仕方あるまい」
「そうだね」
「そのついでにでも旨いメシにありつけるのなら、それは悪いことでもないだろう」
「そう考えるとまあラッキー……かな?」
「ルノーを元気付けるためとはいえ、お前の作った菓子や茶を
 振舞ってもらえるのも嬉しいものだぞ」
「ほんと?」
「ああ、お前の焼く菓子も茶もとても旨い。
 お前の夫となる男は幸せだな」

 そう口にしたカーフェイの顔はわたしからは見えなかった。
 でもそんなことを言われて嬉しくない筈はない。

「そうかな」

 自分でも嬉しそうな声がでたとわかって、そんな自分に気恥ずかしくなる。

「お前はいい嫁になるだろう」

 そう言われて悪い気はしない。
 でも、平然とそう続けてくれたカーフェイはきっとわたしのことなんて
 どうでもいいんだろうな、と少しがっかりした。
 そんな気分が正直すぎるくらいに態度に出てしまい、いけない、と自分を立て直そうと思った時、
 どうした?と振り返ったカーフェイと目が合った。
 その目がいつもより優しい気がして、なんとなく直視できなくなって俯いてしまう。
 もっと自然に話せたらいいのに。
 でもカーフェイとどんな会話をしたらいいのかわからない。
 でも普段寡黙なカーフェイは沈黙が気にならないみたいだから、
 まあいいかと思ううちに、なんだかその静かな雰囲気が落ち着くことに気付いた。
 ……無理して会話を続けるよりもずっとこのほうがいい。
 集中できたお陰か、思っていたよりも片付けは早く終ってしまった。
 ……もう少しかかってもよかったのにな。
 そんなことを思った自分に驚く。
 カーフェイは片付けが終ったのに何かの支度をしている。
 どうしたんだろう?

「カーフェイ?」
「ああ、今日の晩餐は旨かったが少し油が多かったからな」

 茶器を扱うその器用な手付きに見とれてしまう。

「えっ、カーフェイが入れてくれるの?」
「今日は頑張ってくれたからな。
 まあ、こんなものが褒美なるとは思えんが。
 脂分の多い食事のあとにこの茶を飲むと胃が休まるぞ」

 充分ご褒美だよ、カーフェイ。
 丁寧にカップに注いでくれたものを手にソファーに座る。
 いつも飲んでいるお茶より何だか甘い香りがする。
 その暖かさにほっとすると、自分がとても疲れていることに気付いた。

「これ、おいしいね」
「そうか」
「ちょっと甘い」
「干した果実を入れてあるからな」
「そうなんだ」
「……それを飲むと良く眠れる。
 今日は疲れただろう。しっかりと眠れよ」
「……うん」

 お前が元気でいてくれると俺も嬉しいからな。
 カーフェイがそう言ってくれたような気がしたけれど
 本当にそう言ってくれたのかは眠さのせいで自信がない。
 ここで寝ちゃダメだ。必死にソファーを立ち上がる。
 灯を消して、カーフェイと一緒にラウンジを出た。
 おやすみなさい、そう声をかけると、
 カーフェイがおやすみ、といつもより優しく微笑んでくれた気がした。