それでも幸せを祈るよ






 昨晩のあの子はあたしの見立てがバッチリハマって本当に可愛かった。
 仕上がりはカンペキ!
 あいつらの視線が面白いくらいテレサに集中して、
 本当にあたしイイ仕事したなあと、自分で自分を褒めてみたりした。
 特に兄さん。
 確かに昨日のちょっと清楚目かつ胸をちょーっと強調したドレスは
 カンペキに兄さんの好みのど真ん中だったのかもしれない。
 ラウンジに入ってくるなりあの子に目が釘付けになって立ち尽くして、
 後から入ろうとしたウォルターが背中にぶつかるまでぽかんとしていた。
 褒め言葉のひとつやふたつ言えればいいのに。
 普段はすらすらでてくる誇張たっぷりの武勇伝のようには出てこないらしい。
 兄さんは、案外本当のことは口に出すのが苦手なのかも。
 ……それはそれで大問題なきもする。
 ラウンジでのパーティは楽しかったけど、
 騎士団長そろい踏みプラスレヴィアス様っていう面子に気が引けて、
 海竜騎士団の連中と合流して結局飲み直した。
 祝祭日だからって礼拝堂に行く習慣をもたないあたしが、
 遅い朝御飯をのんびり食べて自分の部屋に戻ってみれば、兄さんがいた。
 隠さなきゃならない後ろめたいこともないから別にたいした問題でもない。
 でもテレサが兄さんを探していたのに。何だってここにいるのよ!

「で、兄さんは何でここにいるわけ」
「今、俺の部屋の都合がだな」
「要するにいつもの通り汚いってコトでしょ」
「う、うるせぇ」

 兄さんのただでさえでかい図体を丸めるとより情けなく見えて仕方ない。
 シャキッとしろ!と背中をはたくと、兄さんは何かを庇うように両手を挙げた。

「……まあ、いいけど。
 最近こそこそ何やってんの」
「いいじゃねえか、別に」
「べっつにー。
 兄さんが何バカなコトやろうがあたしには関係ないけど。
 あの子探してたよ?」
「探してたって、……嬢ちゃんがか」
「そう、兄さんを」

 おお、そうか。
 頭をかき、ほんのり頬を赤らめる実の兄にため息をつく。
 テレサは本当に良い娘だ。
 こんな場所にいちゃいけない『普通の女の子』だ。
 でも一緒に補給隊の仕事をして戦いを乗り越えていくたび
 あたしたちは親友って言える仲になっていると思う。
 あたしはあの子の幸せを本気で願っている。
 ……勿論兄さんの不幸だって望んじゃいない。
 あの子を好きになりかけている兄さんの女の子の趣味は悪くないけど、
 テレサ、あんた本当にこんなヤツでいいの?
 悪い兄ではないけれど、全面的にオススメもできない。
 まったく何処がいいんだか。
 じろじろと思わず眺めてしまった。
 兄さんはあたしの用具入れから、細工用の小刀を取り出している。
 手元にはそこそこ綺麗な貝。

「ははーん」
「べ、別にお前にはカンケーないだろ!」
「まあ、あたしには関係ないですけどー。
 それ、あの子に渡すんでしょ?」
「お、……おう。
 折角の祝祭日だからな。でもちぃっと何か足りない気がすんだよなあ」
「今日渡しちゃえばいいじゃない。
 あの子喜ぶよ?」
「まだ何か研磨が足りねぇ気がするし、焦ると割っちまいそうだし」
「兄さん怪力だからねー」
「お、おう」

 胸を張ってみてもこの場合少し虚しい。
 兄さんの大きな手は大剣を振り回すのにはいいけれど、繊細な作業には向いていない。
 無骨な指が貝をぐいっと押し込むたびに割れそうでハラハラする。
 兄さんにしては第一級に丁寧な扱いなんだろうけど……!

「あー、見てらんない!
 あたしにちょっと貸してみなって」
「これはダメだ」
「えー!?」
「ダメだ」

 珍しく真面目な顔でこっちを睨む。
 ……そんな顔出来るんだ。

「こいつは最後まで俺が仕上げないと意味がねえんだ。
 だから、マリア」
「あー。はいはい、わかったわかった。
 そういう顔はテレサの前でだけしてればいいから」
「おっ、見直したか?」
「…………正直うっとーしい」
「マリアぁ」

 その情けない顔でいてくれたほうが妹としては落ち着くのは
 なんなんだろうと思いつつ、

「ちゃんと仕上げてあの子にあげるんだよ?
 中途半端が一番みっとないんだからね」
「お、おう。
 俺様にまかせておけって」
「はいはい」

 それにかまけてあの子の一緒に祝祭日を過ごさないのは本末転倒だ。
 あの調子だと休暇中には出来上がらないだろう。
 ……テキトーなところで見切りをつけてあの子を呼んでこようかな。
 まったく。
 なんであたしが二人を取り持つようなことをしないといけないんだか。
 あとであたしに何か奢ったってバチはあたらないんだからね。
 軽く睨んでみても、兄さんは何も気付かず作業に没頭し始めた。