……もし、いつか






 差し込んでくる朝日の眩しさに目を開けて体を起こすと、
 椅子に昨日のドレスが掛かっていた。

「ん、んんー。
 このままじゃしわになっちゃう。ちゃんとかけておかないと」

 よっ。
 勢いをつけてベッドがら飛び降りる。
 頭が少し痛いのは勧められて飲んだちょっとのお酒のせいだろうか。
 マリアが選んでくれた白いドレスは朝日の中で見ると、何だか少しくたびれて見える。
 きっとそれは昨日の夜が楽しすぎたせい。
 レヴィアス様からのお許しが出たから昨日は片付けをせずに寝てしまった。
 皆が起きて来るのはまだ先だろうけど、いつものようにくつろいでほしいから
 早く片付けてしまわないと。
 手早く身支度を済ませて、廊下へ出ると当直が挨拶してくれた。

「テレサさん。おはようございます。
 昨日のケーキ美味しかったです。
 皆喜んでいましたよ」
「おはよう。当直ご苦労様。
 皆が喜んでくれたのなら良かった。
 足りないものや、欲しいものがあったら補給隊のほうに言ってね」
「ありがとうございます」

 お世辞かもしれないけれど、喜んでくれたのなら良かった。
 皆の喜ぶ顔が見れたらわたしも嬉しい。
 ラウンジの扉を開くと、朝の光の中いびきが聞こえた。

「誰?」
「ん、んー?」

 ソファーから落ちそうになりながら寝返りを打っているのはウォルターだ。
 一応誰かがブランケットをかけたみたいだけど、おへそが見えている。
 寝冷えしないかな。
 そんなに寒くないし大丈夫か。
 一応賭け直したほうがいいかと思い直し、ブランケットをかけ直すと、
 ウォルターはそれを今度は抱きこむようにして眠ってしまった。

「ま、いっか」

 昨日は朝から準備していたせいで、そんなに遅くまで起きていられなかったから、
 わたしが寝た後どうなったのかはわからない。
 でも滅多に加わらないカーフェイも加わってカードの勝負はかなり白熱していた。
 もしかしたら明け方くらいまでやっていたのかもしれない。
 それにウォルターは、こちらのパーティの前に若鬼騎士団の皆との飲み会で
 完全に出来上がっていたから……まあ、仕方ないのかもしれない。
 眠ったウォルターを抱き上げようとすると暴れて痛いとゲルハルトは言っていた。
 だからそのまま眠ったままにしたんだろうか。

「……よく寝てる」

 騎士団長の中では若い方だけど、普段は結構しっかりしているから、
 あんまり意識したことないけど、寝顔は歳相応の少年の貌だ。

「ひとつ上って言ってたっけ」

 それで騎士団をひとつ束ねているのは凄い事なのかも。
 寝汗をかいて張り付いた前髪をそっと掻き分けると、
 ウォルターはむにゃむにゃと何か寝言を言った。
 何やってるんだろ、わたし。早く片付けなきゃ。
 でもこんなに良く眠ってるから、出来るだけ静かにやろう。
 いつもより心持ち丁寧に食器を扱い、静かに歩く。
 安らかな眠りを妨げないように。
 そうやって片付けをほぼ終えた頃、ウォルターが起き上がった。

「んあ?
 テレサ?」
「おはよう、ウォルター。良く寝てたね」
「うぉ、昨日ここで寝ちまったのか。くそー。
 変な体勢で寝てたから背中が痛ぇし、飲みすぎたからアッタマ痛え」
「大丈夫?」
「……あんまり大丈夫じゃねー」
「お水、いる?」
「くれるのなら貰うー」
「わかった」

 コップに水を注ぎ、レモンの薄切りを一切れ浮かべて、
 ウォルターに渡すと、悪ぃなと一気に飲み干した。
 ごくごくと動く喉に口から漏れた水の雫が滴る。
 それを綺麗だなと感じた自分に驚いた。

「ありがとな。
 どうしたんだ、テレサ。ボーっとして」
「いや、なんでもないの。
 ウォルターこそ、大丈夫?」
「大丈夫じゃねーから自分の部屋で寝なおすわ」
「そっか」
「おう」
「おっはよ♪
 おや、……朝早くから、二人きりだなんてウォルターもすみに置けないね」

 ノックの音に振り返るとジョヴァンニがニヤニヤしながら立っていた。
 ボクにもそれ欲しいな、と言われたのでジョヴァンニにもレモン水を渡す。

「そんなんじゃねーよ」
「ホントかな♪」
「違ぇって!!!!
 …………っってー!」
「そんなむきになって大声上げるから」
「お前だってそんなもん飲んでるのなら二日酔いなんだろ」
「そうだよ。
 何かいい雰囲気だったからちょっとからかいたくなっただけさ。
 ……テレサ、ありがと。ボクはもう少し寝ることにするよ。
 朝は入りそうにないからそう伝えてもらえる?」
「うん。
 お大事にね」

 ひらひらと手をふりジョヴァンニは行ってしまった。
 再び静寂が戻ったラウンジでウォルターは髪を掻き毟り大きくため息をついた。

「あの野郎なんだってんだ、もう。
 …………オレも寝るわ。
 テレサ」
「なあに?」
「……俺らはこんなだけど、お前はちゃんと祝祭日楽しめよ」
「うん」
「もう休みも終わりかー。
 どっかもう少し出かけたり出来たら良かったのになー」
「そうだね」

 顔を上げると、ウォルターと目が合った。
 何だかお互い気まずくて目を逸らしてしまった。
 でも、それがほぼ同時だったから何だかおかしさがこみ上げてくる。

「また、こんな休みがあったらさ」
「えっ?」
「いや、……なんでもねー」

 ウォルターは照れたように笑うと、勢いをつけて立ち上がり、
 そのまま自分の部屋に戻っていった。