唐突に随分な質問をされて将臣は飲んでいたコーヒーを思わず噴き出した。
むすっとしながらそれを黙って拭く譲の恐ろしい気配を感じとる。
明らかにこれは殺気だ。
……確かに面白い話題では、ない。
何故俺に聞くんだ!将臣はその場から逃げ出したかった。
でも確かにあとは俺以外に聞ける話題でもないんだろう。
けれど。
痴話げんかはよそでやってくれ!!
身が持たない!!
そう思うが多分……今晩のメシは俺にかかってるんだろう。
メシの確保は死活問題だ。
カップ麺はうまいけれど、それはたまに食べるから、であって…
「将臣くん」
思いつめたような顔で聞くなよ。
ああ、今思い出すから。
……ファーストキスだと?
ほっぺだの唇だのって、自分で思い出せよ。
って思い出せないから俺に聞いてるのか。
……適当にごまかすこともできないのか、譲。
違うか。譲が一番気にしてるんだな、望美はあんまり拘らなさそうだからな。
記憶を引っ張り出す……多分、あれだ。きっと、そう。
「じゃんけんで……」
じゃんけん!?
二人が凄い勢いで飛びついてきて、思わず怯む。
そして都合の悪い思い出であったことを思い出してしまう。
ああ、あれは確かじゃんけんで順番を決めたんだった。
勝ったのは俺、負けたのは譲。
譲は涙目で俺を見ていたなあ。
俺の左に譲の右のほっぺに望美が……。
ああ、言えない。こんなことは。
「……同じ日にほっぺに望美がちゅーしたんだよ。
どっちが先とか覚えてない!!」
譲は疑わしそうな顔をしていたけれど、後は知らない。
お前がなんとかしろよ。今はお前の彼女なんだろ!
……まあファーストキスくらいは貰っておいても役得だろうさ。
いい思い出くらいは俺にも分けてくれたって悪くはないだろう。
なあ、譲。
……でもひとまず、この居間からどう逃げ出すか。
上手く、晩メシも確保したいけれど、それは無理な話かも……しれない。