どうしてこんなに安心するのかな。
 頭を撫でるその手の暖かさに、一旦引いた涙がまだ零れ落ちそうになる。
 お母さんと喧嘩して、家を飛び出して突然来てしまったわたしを
 幸鷹さんは困ったように見つめたけれど部屋に入れてくれた。
 何でかな。
 最近家にいるよりここにいる方が安心できるのは。

「落ち着きましたか?」
「……はい。
 いきなり来てごめんなさい」
「それは良いのですが。私がいる時間で良かった。
 貴方を独りで泣かせたくなんてありませんから」

 幸鷹さんはもう一度ゆっくりと頭を撫でると、
 暖かいコーヒーを入れてくれた。
 いつもの香りにほっとする。
 この香りももう自分の一部だ、と思う。

「この部屋落ち着きすぎるんです」
「それはいけないことですか?」
「いいえ」
「花梨がずっとここにいてくれたらいいとは思いますが、
 まだ難しいですからね」

 幸鷹さんはにっこり笑うと頬を撫でた。
 この手が大好きだ、と思うのに、幸鷹さんは
 落ち着いたら送って行きますからなんて言う。
 幸鷹さんはもっと一緒にいたくないのかな。
 寂しくなって、きゅっと手を握ったら、

「私を困らせないで下さい。
 貴方を帰したくなくなってしまう」

 少し困ったように笑うと、軽く触れるようなキスをした。

背景画像:ミントBlue

あなたの手 幸花ver.