「これをお借りしてもいいでしょうか」

くすりと笑って幸鷹さんが指差したのはお父さんの自転車。
わたしはよくわからなくなって首をかしげた。
今日はお弁当をもって近くの公園にピクニック。
お母さんに少し手伝ってもらったけど、ちゃんとわたしも頑張った自信作。
そこは家からは確かに自転車で行けない距離じゃないけれど。

「どうするんですか?」
「二人乗りで、行きませんか?花梨」
「自転車乗れるんですか?」

思わず聞いてしまったから少し幸鷹さんは思案顔になり。
じゃあ少し試してもいいですか?とすーっと走り出した。
ぴたっと止めて、少し低いからサドルの位置を変えてもいいですか?
と幸鷹さんがお父さんに聞いたら、
お父さんは気をつけて行きなさいと笑って送り出してくれた。
さすが理系の幸鷹さん。
まるで実験中みたいな真剣な顔でピタっと自分の高さにサドルを合わせると、
どうぞ、乗ってくださいと笑った。
お弁当が入ったバスケットを前の篭に載せて。
わたしが後ろに乗ると、すーっと自転車は走り出した。

「二人乗りって交通法違反じゃなかったんでしたっけ」

幸鷹さんってそういう違反に対して厳しいイメージがあったのに。
なんとなく、だけど。
マナーとかきちんとしてるし。
でも幸鷹さんはたまにはいいでしょう?と笑って何も言ってくれない。
公園について、きちんと自転車置き場に自転車を止めて。
二人で手を繋いで歩いていく。

「たまには悪いことをしてみたくなるんですよ。わたしも」

いたずらっぽく笑った幸鷹さんに目を丸くする。
わたしは確かに検非違使別当でしたが、全てが悪だと断罪したりもしませんよ。
二人乗りで、学校に通う高校生とか少し羨ましくなったので、
わたしもやってみたくなったんです。
わたしの作ったおにぎりをおいしそうにほおばりながら、
幸鷹さんはにっこりと笑った。

背景画像:空色地図

貴方と自転車に乗って 幸花ver.