24
貴方はこっちに帰ってきてから俺との距離が遠いと言っていた。
それはそうだ。
もうあの異世界で貴方を助けられる理由や堂々と傍にいられる理由がない。
近づいた距離に慣れすぎてしまったらいけない。
帰ってきた俺は元通りの日常と昔のままの距離を取り戻そうとしていた。
けれどそれを寂しいと感じてくれるのは悪いことじゃない。
貴方からまさか誘ってくれるなんて思いもしなかった。
パーティの直前まで準備やら迷宮の探索をしていた。
貴方は疲れていないだろうか。それが少し心配だった。
「先輩!これ」
パーティの片づけを済ませていつものように帰ろうとした貴方を呼び止める。
貴方は俺の好きな笑顔で振り返った。
「なーに?」
「これおじさんと、おばさんに」
「とっておいてくれたの?」
「毎年のことですから。
……先輩のうちケーキ買ってました?」
「ううん?多分買ってないと思う。
今年はみんなでパーティするって言ったらそう、って言ってたから、
準備もしてないんじゃないかなあ」
「……何だかそれも悪い気もするんで。
良かったらこれ、持って行って下さい」
紙袋の中には、よけておいたローストチキンとケーキが入っている。
毎年春日のおばさんはケーキを褒めてくれるし、
おじさんは俺のローストチキンを楽しみにしてくれていた。
皆で祝ったとしても、何だか二人に食べてもらえないのも寂しいので
先によけておいたのだ。
「今年のも美味しかったから、きっと喜ぶよ」
「だったら、良いんですけど」
「きっとそうだよ。
でも今年はプレゼントの交換とか出来なかったね。
ちょっと残念」
「そうですか?」
貴方からは充分すぎるほどのプレゼントをもう貰っている。
明日一緒に出かけられること。
その約束を胸に今日おやすみを言えること。
それがどれだけ俺にとって幸せなことか、貴方にはわからないんだろう。
「明日、楽しみだね」
「そうですね」
普通を装って、そうですねだなんて言って。
語尾が震えていたのに貴方は気付いただろうか。
楽しみ、だなんて。
そんな無邪気で無防備な笑顔で口にする貴方に、一瞬苦しいくらい胸が高鳴る。
けれど、少し目をそらし、眼鏡を直す振りをしてなんとかやり過ごした。
そんな俺の気持ちなんてちっとも気付かず貴方は、
おやすみと笑顔でドアの向こうに消えた。