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「……イノリから聞いたのだが、天真。
『くりすます』とは何だ」
「はあ?」
いつも真面目すぎるほど真面目で、緊張を解いたりすることの無い
自分の相方の突然すぎる質問に、天真は一瞬何のことだかわからなかった。
「天真にもわからないことなら、神子殿にお尋ねしたほうが良いのだろうか」
「いや、それは俺にもわかるけどよ。
何でいきなりクリスマスなんだ?」
「それは良くはわからないが。
もしお前や詩紋、神子殿が冬までこの京に留まられるというのなら、
その、『くりすます』とやらの祝賀をあげよう、という話だった」
「はあ……どうせ詩紋あたりが言い出したんだろうな。
あいつはそういうの好きそうだもんな」
「……天真は好きではないのか」
「好きっていうか……蘭のことがあったからそれどころじゃなかったし、
もし祝ったとしても祝えるような気分じゃなかった。
子供が大きくなってくると自然と家ではやらなくなるからなあ。」
「子供の祝いなのか?」
「そういうわけもないんだけどさ。
大事な奴と一緒に過ごす日、みたいなもんだ。
ちょっと豪華なメシを食ったり、贈り物をやったりしてさ。
サンタクロースっていうひげ面のおっさんが子供たちにプレゼントを
くれる日っていう伝統があってよ。
子供がいるうちはそれを信じさせようとして、盛り上がるんだ。
本当は正体は親だったりするんだけどな」
「……そうか」
「まさか詩紋のやつまだサンタを信じてるんじゃねえだろうな。
あいつのことだからもしかしたりしてな。
まあわいわい楽しいのは確かだからな。
だから八葉と皆でクリスマスをやりたいって言ってたんだろ」
「そうか」
何やら考え込んでしまった頼久を天真は不思議そうに覗き込んだ。
「天真。
つかぬことを聞くが……、
その大事な人というのは、必ず複数いるものなのか?」
「そんなことはねえぜ。
大人になればそりゃあ好きな奴と……って、頼久お前何言い出すんだ」
「…………い、いや。
別にそんな」
「ああ、まあ、そうだな。
そんな風に慌てるな。見てるこっちが恥ずかしくなるだろ。
別に変なことでも何でもないがお前の口からそんな言葉が出てくるとびっくりするぜ。
まあ、あかねと一緒だったら、クリスマスも悪いもんじゃないよな」
「…………そうか」
一瞬躊躇った後、お前の応援をすると言いかけた頼久を、
天真は無理やり遮った。
「頼久。お前のそういうところ本当に腹が立つ。
お前に遠慮されたって俺は全然嬉しくもなんともねーよ」
「しかし、お前は俺の信頼する友だ……」
「お前は本当に恥ずかしい奴だな!
友達だからとか、関係ねえだろ、馬鹿。
誰を選ぶとか、あかね次第だろうが」
「…………すまない」
「謝られるのも何か違う気がするぜ。
あー、なんかスッキリしねえな!
でも今年は……ふたりきりとかじゃなくて、
皆でやりきったことを祝いたいな。全部終わったら」
「そうだな。
最後まで全力で俺は神子殿をお守りしてみせる」
「おう。俺も負けねーよ」
やるか、久々に。
天真が構えると、頼久は余裕を持った構えで立ち、
あっさりと天真を投げ飛ばした。
容赦ねーな!と天真が叫ぶと、鍛錬に甘えは必要ないだろうと頼久はしれっと言い放った。