おしゃまさんとぼく






「ゆずるくんってママを見るとき、すごく優しいかおするね」

 そうかな、と穏やかに返すつもりが、飲んでいたコーヒーを気管に入れてしまう。
 このおしゃまさんは良く物事を見ている。
 子供だからといって油断しているとこれだ、譲は苦笑いした。
 久々に春日家に戻ってきた望美に差し入れ、と手作りのケーキを渡しに来て、
 やっぱり望美の笑顔が好きだな、と思った矢先の出来事だった。
 久々に譲くんのケーキだ!とはしゃいでお茶を入れに行った望美の背中を目線だけで追う。
 望美の両親と談笑する父親がちっともかまってくれないので、
 おしゃまさんは譲の膝の上でケーキをつまんでいる。
 大人の会話に混じりたくて仕方ない年頃なのだ。
 自分にもそういう頃があったな、と譲は苦笑いする。

「ゆずるくんってママがすきなの?」
「そうだね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「どっち?」
「どっちかな」

 ふふふと膝を揺らして、おしゃまさんを揺らすとおしゃまさんはしがみ付いて笑い出した。
 すこし黙っててくれないか?と指でしーっとすると。
 おしゃまさんはいたずらっぽい顔をして黙った。
 おしゃまさんは望美の小さい頃に似て、とても笑顔がかわいい。
 ちっともじっとしていられない所とか、笑顔がみんなを幸せにするところとか。
 望美に似ているのに。
 この鋭さとカンの良さは父親譲りなのだろうか。
 望美はカンは悪くないほうだ、色恋沙汰に鈍いだけで。
 だからこうやって目線を送ると、振り返って笑顔を返してくれる。
 変わらない笑顔。
 幸せに暮らしているのだろう。
 おしゃまさんとふたりで手をふってみる。
 居間で話す大人たちの会話に加わるつもりも、邪魔するつもりも無い。
 おしゃまさんの退屈がおさまったら家に戻るつもりでいた。
 手を振り返してくれた望美の笑顔に胸が高まらない自分に気付く。
 望美の笑顔は相変わらず自分を幸せにしてくれるけれど、
 あの頃みたいにこがれるような熱さはもう、ない。
 あの想いは何処へいったんだろうなと遠い目をして感慨に……ふけるヒマもない。
 おしゃまさんは何かを期待して譲を眺めている。

「ゆずるくん大好き」
「ありがとう」
「だってゆずるくんのケーキすごくおいしんだもん」

 満面の笑顔でケーキをほおばるおしゃまさんに望美の面影が重なる。

「君が来たらまた焼いてあげるよ」
「じゃあおっきくなったら、おっきいケーキ焼いてくれる?」
「いいよ。どんなケーキがいいの?」
「えっとね。三段くらいの、真っ白で綺麗なケーキ」
「いいよ」

 ほんとに!?とおしゃまさんは譲の膝から降りてぴょんぴょん撥ねた。
 やくそく!と指きりをせがむおしゃまさんと指きりをしようとして、
 ふとある考えが浮かび指を引っ込める。

「三段くらいのケーキって、まさか」
「ゆずるくんとけーきかっと?するの」
「!!!!」
「だめ?」
「だめじゃないけど。
 ケーキカットっていつするか知ってるの?」
「けっこんしきでしょ?」

 がたがたっと居間のほうで音がした。
 嫌な予感がして振り返ると、居間の大人がこっちを注視している。
 ああ、頭が痛い。

「それって俺と結婚したいってこと?」
「だめ?」
「ダメっていうか。ケーキは焼いてあげたいけど。
 君の王子様はきっと他のどこかにいるよ?」
「いるかなー?でもゆずるくんかっこいいし、やさしいし。
 だいすきだし」
「……ありがとう」

 嬉しいが、素直に喜べない。
 居間の大人達の視線が痛い。迂闊な返事は出来ないが。
 このかわいいおしゃまさんに適当な返事はしたくなかった。

「じゃあおよめさんにしてくれる?」
「……君がおおきくなった時にまだ俺のことを好きでいてくれたらね。
 あっ、あと俺に奥さんがまだいなかったら」
「ゆずるくんけっこんしちゃうの?」

 居間の大人達の視線がより強く刺さる。
 ああ、早く帰ればよかった。

「まだ、……予定はないよ?」
「じゃあ」
「……君がおおきくなるまでまだ、時間があるよね。
 だからこういう約束にしよう?
 君の結婚式のケーキは焼いてあげるよ。それでどうかな?」
「ママとおそろい?」
「そうだね。それじゃダメかな」

 あまり予算がかけられなかった望美の結婚式のために、
 譲は三段のケーキを焼いたのだった。
 外国の結婚式みたいに、みんなで切り分けて食べたいの!という望美の要望どおりに。
 そうか、さっき望美の結婚式の写真を見ていたから。
 おしゃまさんの頭をくしゃっと撫でる。

「その約束でよければいいよ」

 若干不満そうな顔をおしゃまさんは一瞬したけれど、笑顔に戻って
 じゃ、やくそくね。と指切りをした。

「ママみたいに白いドレスきたいな」
「きっと君もママみたいに綺麗だろうな」
「たのしみにしててね」

 おしゃまさんは譲の首に腕をまきつけて、ちゅっとほっぺたにキスをした。







背景画像:ミントBlue

誓っておきますが、譲とおしゃまさんのカップリング推奨、ではないです。(苦笑)
冒頭の一行が書きたかっただけでまさかこんなことになるとは!(びっくり)
おしゃまさんは、ムーミンから。おしゃまさんってもう死語ですかね。でも好きなんです語感が!
望美さんの娘の名前をつけたくなかったので、おしゃまさんで通してしまいました。【090825】