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「母さま!」

 飛びついてきた大君に花梨は苦笑いする。

「どうしたの?」
「ええと、明日の晩にはさんたさんがこちらにこられるのですよね?」
「大君が良い子にしてたらね。
 サンタさんはこの一年の大君を見て、良い子だったと判断したら
 明日の晩に来てくれるはず。
 大君は良い子にしていたと思う?」

 大君は真面目な顔で考え込んでしまった。
 花梨はこういう生真面目なところが大君は幸鷹にそっくりだと思う。

「小君は良い子にしてたでしょ?母さま」
「小君はそう思うの?」
「もちろん。
 母さまもそう思うでしょ?」
「さあどうでしょう。
 でも明日になってみればわかるかもね」
「えー?」
「小君は不真面目すぎるんだよ」
「兄さまは堅すぎるんだってば!」

 いつのまにか当然のように花梨のひざに陣取った小君の、
 まだやわらかい髪を花梨はするすると撫でた。

「小君ばっかりずるい」
「兄さまはここに乗るのはむりでしょ」
「でも」
「兄さまも小君もそんなに騒いでいたら母さまがかわいそう。
 さんたさんも明日来てくれないかもしれないわよ」

 いつの間にか騒ぎを聞きつけて、反対側の対の屋から中の君が来ていた。
 中の君は大君よりも年下のくせにたまにこんなものいいをするのは、
 きっと幸鷹の影響なのだろう。
 幸鷹は中の君が可愛くて仕方がないようで、中の君は幸鷹によく懐いていた。
 中の君の面差しは幸鷹に似て秀麗で、きっと美人になるんだろうなあと
 花梨は思っている。

「さあさあ、母さまを解放して皆で遊んでいらっしゃい。
 母さまはやることがあるんですからね」

 はーいと大君と小君がかけていくのを、中の君が慌てて追いかけていった。



「はい、今日もお疲れ様です」
「ただいま、花梨」
「明日の準備はできてますか?」
「勿論」

 にっこりと微笑む幸鷹の嬉しそうな顔に、花梨も嬉しさがこみあげてきた。
 明日の晩は皆で揃って少しご馳走な夕餉を取る。
 朝が待ちきれない子供たちははしゃぎまわるけれど、
 たいてい疲れて眠ってしまう。
 それでもサンタクロースの正体を子供は見たくて、必死で起きていようとするのだ。
 自分たちもそうだったなと二人は振り返る。
 大君が去年少し起きそうになっていたらしい。
 いつまでこの習慣は続けられるのだろうか。
 二人は異文化を持ち込んでいるとわかっていたけれど、
 海を越えた彼方にはクリスマスがないわけではないのだし、
 こんなに楽しい催し物をしないのも勿体無いではないか。
 子供たちが大きくなるまでのわずかな時に、少しでも楽しみをあげたいと思う。

「いつまでサンタでいられるのでしょうね」

 少し寂しそうな顔をした幸鷹の頬に、花梨は笑ってキスをした。


23.貴方はサンタクロース

遙かなる時空の中で2 藤原幸鷹×高倉花梨